Thank you 4 Anniversary

□飛んでけベイビー第四話
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カラスの鳴き声は「カァーカァー」と鳴いているようなものもいれば「ア〜ホ〜」と鳴いているように聞こえる生意気なものもいる。

今飛び立ったカラスは確実に後者だった。あいつの目は俺たちを完全に馬鹿にしていた。

あのカラス、次に見かけたときにはただじゃおかない!と、静かに殺気立っていると廊下の隅で総司が腹を抱えて笑っているのが見えた。

何故、総司が笑っているのかはわからないが、とりあえずその笑い方は先程の生意気なカラスを彷彿とさせるもので、俺は左手を刀の柄にかけたままゆらりと立ち上がった。

「ちょ……一君!」「斎藤さん?」

背後で慌てている平助の声と、きょとんとした雪村の声がする。

「あははははっ!!もう最高に面白いよ!!」

「何故そのように笑っている!?」

つかつかと総司に向かって歩いていると、廊下の途中にある障子戸が開き、不機嫌な顔の副長が現れた。一体何事だろうか。

「斎藤、至急に頼みがある」

「はい、何でしょうか副長」

「ここに幹部を集めてくれ。……で、雪村は源さんの手伝いか何かに行かせてこの部屋に近寄らせるな」

「御意」
さっそく近くに居た平助と総司を部屋に放り込むと、雪村を勝手場で作業している源さんのところへ連れて行った。その帰りに左之を捕まえるとそのまま副長の元へ向かった。

「揃ったか、じゃあ会議を始めるぞ」

やけに重い空気の中で会議が始まる。相変わらず総司は部屋の隅でくすくすと笑っている。やがて副長は議題は雪村の事であると切り出した。

「ここで暮らしていくうえで雪村には男装をしてもらうことになっている理由は、この男所帯で万が一にも間違いがあっては困るからだ。それは皆も雪村自身も理解していると思うのだが……」

「何だよ土方さん、改まって……千鶴がどうしたっていうんだ?」

左之が不思議そうに困り顔の土方さんと爆笑している総司の顔を順に見ながら首を傾げた。

「雪村には基本的な知識もなければ、警戒心もない。そのことがそのうち問題になる可能性がある。だからどうしたら良いか皆の意見が聞きたい」

「……? 雪村に基本的な知識が無いって何言ってんだよ。千鶴は医者の娘だからか、同世代の娘に比べたら医学にも明るいし、文字の読み書きとかも普通に出来るじゃねえか」

心底意味がわからず首を傾げる左之に総司が笑い泣きの涙を拭きながら言った。

「土方さんのぼかした言い方じゃ、そりゃわからないよね。左之さんは知らないと思うけど、千鶴ちゃんって赤子は仲睦まじい夫婦の家に鳥がこっそり運んでくるものだと思っているんだよ。で、さっき八百屋の女将が授かったかも?って話を聞いたもんだから赤ちゃんを運んでる鳥が見えないかって屯所の縁側で空を見上げてソワソワしてさ。
しかもさっき、通りかかった平助や一君に『赤ちゃん授かる瞬間が見たい』とか何とか満面の笑みで言ってたんだよ。例え男の格好をしていても、あれだけ無防備で警戒心がなかったらいつか何か起こるんじゃないかって土方さんは心配してるんだよ。ちなみに僕は全く心配してないし、むしろ何か起こってみれば面白いのに、って思ってます」

状況を説明し、更に清々しく自分の願望を言い切った総司の言葉に副長のの眉間の皺が更に深くなった。


「う〜ん、何も知らねえってのはある意味困ったもんなんだな……」

額にかかった赤い髪を吐息でふわりと遊ばせながら左之がそう言いながら妖艶に小さく笑った。

こいつの無駄に溢れる色気は何とかならんもんだろうかと心の中で思っていると、そうだ!と左之が名案を思いついたのか膝を叩いた。

きっとろくでもない案に違いない。

確証はないが、強くそう思えた。

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