Thank you 4 Anniversary

□飛んでけベイビー第1話
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総司と千鶴と俺と三人で珍しく外出することになった。俺の用事を済ませ、屯所へ戻る道すがら、久々の外出で嬉しくてたまらないのか、明るい顔をした千鶴が言った。

「井上さんに大根を買ってきてほしいと頼まれているんです。八百屋さんはありますか?」

「八百屋はこの道の角を曲がるとすぐだ」

「では行ってきます!大根買うついでに父様の事知らないか訊いてきます!」

「綱道さんはついでかよ……」

女ってのは買い物が好きな生き物だからだろうか、元気良く走り出した千鶴を半分呆れながら見守っていると

「すぐそこの距離だからって油断してませんか?こんな状況で逃げられたらどうするんですか、早く追いかけないと」

珍しく妙に真面目な総司に急かされて、千鶴を追い角を曲がる。

「……なっ!」

八百屋の前はとてつもない人だかりができていた。源さん曰く、この店はこの辺りでは一番質の良い商品を良心的な価格で提供している店で常に賑わっているとは聞いていたが。この人の多さはそんな感じではなかった。

「ふむぅぅぅ……」


人混みに埋もれ、微かに変な声で苦しんでいた千鶴を発掘し、人に潰されないよう盾になってかばってやりながら八百屋の順番を待つ。
聞こえてくる話し声から、どうやらこの賑わいはいつものことではなく、今日が特別混んでいるらしい。

「お待たせしてすまないね」

「だ、大根ください!」

「はいよ。すまないねぇこんなに混んでて……いつもはこんなんじゃないんだけど」

「何かあったんですか?」

不思議そうに千鶴が訊ねると、店主は少し困ったような表情で言った。

「普段、私が仕入れ担当で母ちゃんが店を仕切っていたんだけどね、ちょっと母ちゃんの調子が悪くてね」

「……そうなんですか」


大根を選んでいる手を止めて千鶴は悲しそうな顔で俯いた。そんな千鶴の表情に気づいた店主が慌てて言った。

「あぁすまないね、別に重い病気とかではないんだよ?まだはっきりしないから何とも言えないけどたぶん……」

店主の言葉を一緒に聞いていた他の客たちがそこまで聞いた途端口々に色々と言いだした。

「なんだ奥さんおめでたかい?!」
「そりゃめでたいな!そうだ!じゃあ奮発して今日は鯛も買おうか!鯛をくれ」
「あほか、鯛は魚売りで買え!!」

一転しあはは、と盛り上がる様子を千鶴も嬉しそうに眺めていた。

「はい、大根お待ちどう、あとこれはおまけ」

「わぁ、ありがとうございます!」

店主から大根を受け取って支払いを済ませた千鶴はペコリと頭を下げた。

「おめでとうございます。奥様のお加減早く良くなるといいですね」

「あぁありがとう。次に来てくれたときには母ちゃんは店の中を走り回ってると思うよ」

「そうですか。元気な赤ちゃんが飛んでくると良いですね!!」


……赤ちゃんが飛んでくる!?


店主との別れ際に千鶴が言い放った一言にその場に居た者全員の頭の上に疑問符がついたが、各々すぐに「何かの聞き間違いに違いない」とその発言を見て見ぬ振り、ならぬ聞いて聞かぬ振りとした。
もちろんその場に居た俺もあえてその発言に突っ込むことはなかった。

そしてそれを後から大変後悔するのだった。

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