rewind
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何度も繰り返してきた世界だけど……
――今回は色んな事が変わってきている。
幕府は諸外国と対等な条約を結び、瞬く間に世の中には様々な文明が溶け込んできている。
「やっぱり夜の巡察は街灯があるお陰でロマンティックですね」
「……そうだね」
隣を歩く千鶴ちゃんは闇を照らすオレンジ色の灯りに見とれながら歩いている。
幕府の外交は順調で人々の暮らしは豊かに、便利になっていっている。
この世界では薩摩や長州が鎖国を求めて叫んでいる。僕らはそんな奴等を捕まえる仕事をしている。
根本からこの世界は今までとは違う。
僕はそう思った時に、もしかしたらようやく僕の望むものが叶うかもしれないと喜びに心が震えた。
新選組は賊軍になる事なんてなく。
今までの世界なら、もう死んでいる筈の時間だけど近藤さんは元気に生きている。
「沖田さん」そう呼んで微笑む彼女は僕の傍にいつも居てくれる。
僕はこの世界では健康そのもので風邪ひとつ引いたことがない。
この世界は今までとは違う。
僕は希望を見つけたようで本当に嬉しかった。
今まで何度も何度も繰り返した世界で、どんなに避けようとしても無理だった事がこの世界では覆る。
この先の未来に、何があるのだろうか。
縁側に座り、千鶴ちゃんが庭掃除をしている姿を眺めながら未来について想いを馳せていた僕の視界が急にグラリと傾いた。
「沖田さん!!」
遠くから真っ青な顔で駆け寄ってくる千鶴ちゃんが見える。
――おかしいな。僕、咳なんてしていないのに。
原因不明の死病。
この世界の僕に下されたのは労咳よりも深刻な病だった。
どうして。どうして。どうして。
この世界なら労咳は治るのに。
僕は屯所の一番奥の部屋で絶対安静を命じられた。
他人に移るかどうかもわからない原因不明の病にかかった僕はまるで腫れ物に触るかのような対応で。
病を恐れているのか、役に立たない僕はもう存在しない者だと捉えられているのか、部屋には誰も来ない。
扉を数回叩いて立ち去る足音がして、気配が消えて漸く扉を開けると食事の膳が置かれている。
何百回も繰り返した世界でいつも病に冒された僕だけど、こんなにも療養中に誰も来ない事なんてなかったし、こんなに孤独な事はなかった。
“早く良くなれよ。待ってるからな”
“お前が居ないと大変なんだよ”
“身体を治して必ず追い付いてこい”
今まで繰り返してきた世界で仲間である彼らの見舞いの言葉はいつも暖かかった。
皆、今何をしているのだろうか。
ふと、気になって立ち上がると気配と足音を消して皆の気配がする裏庭の方へそっと向かう。
「沖田さんの部屋に行きたいです」
すると千鶴ちゃんの声が聴こえた。足を止めて、気配を消して、そっと耳を澄ませる。
「駄目だ。あいつの病は原因不明だ。お前を感染の危険にさらすわけにはいかない」
「でも……沖田さんずっと部屋にお一人なんて……」
「原因不明の病にかかる奴が悪いんだ。この世界に役に立たない者、リスクしかない者は不要なんだ」
「まぁ、もう半月もしない頃には命が尽きるだろう。そんな奴に気持ちを持っていてもつらいだけだぜ?」
「そうだよ!あいつの事は忘れて楽しい事だけ見て生きていこうぜ」
聴こえてきた残酷な言葉に僕は暫く茫然としていた。
この世界に抱いてきた希望は粉々に散った。
真っ白になりながらも静かに部屋に戻った僕に話し掛けてくる声がした。
「このまま終わらせる?それとも足掻いてみる?どうする沖田」
いつ、どこから部屋に入って来たのだろうか。
南雲薫が僕を試すようにそう言った。