鬼灯の冷徹 長編

□第四夜
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「うっうぅ、ここどこだろう...」

なんとか人混みから抜け出せたものの見覚えのない場所にポツリと残される

「ん、かえれるかな...うっふぇぇっ」

唯一頼れる鬼灯もいない

知らない場所

子供である壱岐にはそれだけで恐怖に襲われるのだ

胸がきゅうっとなって苦しい

涙で前が見えない

誰も自分に気づいてくれない

またあのときに戻ってしまったような感じがした

「うぅっほお、ずきぃっうぅううふえぇえええっどこぉおおっこわいよぉおおっ」

本格的に泣きはじめてしまい周りの目も気にせず泣きじゃくる壱岐

するとぽんっと背中に大きな温もりを感じた

壱岐はひくひくっと身体を揺らしながら振り返る

ぼやけた視界には白い服と黒い髪

「大丈夫かい?」







「っよっ妖怪さんだ...目を合わせちゃだめっ目を合わせちゃダメっ」

すっと涙はひっこみまた違う恐怖に襲われる

壱岐は小さな手で自分の目を隠して暗示をかけるように同じ言葉をつぶやく

「え?目を合わせちゃダメってどういうこと?君泣いてたけど迷子?」

だめだめっ優しくしてくれるのは壱岐を食べるためなんだっ話しちゃだめっ話しちゃだめっ

「あのね〜それ全部聞こえてるよ君!僕は君を食べたりなんかするわけないじゃないか」

「だっだって...こわいこわい妖怪さんなんでしょ..?」

「誰がそんなこと言ったのっ!僕はすごい優しい妖怪さんなの!」

よしよしと背中を摩りながら妖怪さんは壱岐を見つめる

「本当に優しい?食べたりしない?」

「食べたりしないよ」

「ほんとにほんと?」

「ほんと」

すぅっと壱岐は隠していた両目から手を離す

すると本当に狐さんみたいな人がいた

男は壱岐のオッドアイをみてピクッと動きを止めたがすぐに笑顔になる

「僕は白澤だよ、君は?」

「.....壱岐..」

控えめに俯きながら壱岐は小さくつぶやく









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