鬼灯の冷徹 長編

□第二夜
2ページ/2ページ



家らしき場所に着くと椅子がありあそこに座っているように言われた

鬼灯にとっては簡単に座れるであろう椅子であっても壱岐にとっては高いため上手く登ることができない

片足を椅子に乗っけてよじ登ろうともがく

「も、もぅちょっ...とぉっ!」

うぅうっと唸りながら必死に座ろうとする

(なんですかこんな可愛い生き物は...)

鬼灯は救急セットを持って来て壱岐の元へ向かうとなんとも可愛らしい光景を見てしまった

小さな身体で一生懸命椅子に座ろうと登る壱岐をみて口元が緩む

「ほら、無理なら言ってくれていいんですよ」

鬼灯は後ろから壱岐を抱えると椅子に座らせてあげる

「っ!....うぅ」

壱岐はちょっとはずかしかったのか少し顔を赤らめる

「じゃあ消毒しますよ」

いくら死んでしまったといってもある程度は傷が残っていた

小さな傷も全て消毒し、深い傷は包帯を巻いていく

「なんで、ここまでしてくれるんですか」

壱岐は手当てされている傷口を見つめながら小さな声で囁く

「私は貴方のお父上にこちらでとてもお世話になっていたんです」

「父さんに...?」

「えぇ、よく地獄のことを教えていただきましたよ、とても優しい方でした」

「そうだったんだ....」

包帯も巻き終わり鬼灯は救急セットに出したものを片付けていく

壱岐はちょこんと椅子にこじんまりとしたまま動かない

「疲れましたか?寝ていいですよ?布団もありますから」

そうは言うものの壱岐は目を擦りながら両手を鬼灯に向ける

おそらく抱っこしろということだろう

「まったく、行きますよ」

両脇を抱え込み赤子をあやす時のように抱える

きゅっと弱い力で鬼灯の着物そ裾を握り抱きつく

どうやら今まで張り詰めた生活から解放されたせいか少々甘えん坊になってしまったようだ

だがこれが本来の姿である

鬼であっても子供は子供なのだ

甘えたくて仕方ないのだろう

鬼灯は抱き上げたまましばらく背中をぽんぽんとリズム良く叩くと微かに寝息が聞こえてきた

それを確認すると寝室へいき敷いてある布団へと寝かしつける

掛け布団をかけおわりその場から立とうとしたときまたも着物の裾を握られていた

まじまじと見ると自分よりも細くて小さい傷だらけの手にきゅうっと胸が締め付けられる

こんなに小さな子供があれほど酷いことをされてきたと思うと怒りが溢れてしまいそうだ

罪もない者を外見が違うだけで痛めつける人間はなんて汚らわしいことか

元人間であるからこそ許せないのだ

自分とはちょっと違うようだが似ているような気がする

守ってやらなくてはいけないんだ、唯一の父親さえなくしてしまい誰にも頼ることのできない哀れで可哀想なこの子を

小さな手を握りしめ鬼灯はそう決めたのだ






-
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ