1年B組


□僕を愛した人。
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ある日突然事故に遭い、どこかに運ばれた

どのくらい寝ていたのかは覚えていない

目が覚めると、白い景色が広がる

自分の身体にはたくさんのチューブが繋がられていて、身動きが困難だった

手元に目をやると、自分よりも大きな温かい手があった

「…せん、せ………」

その小さな呟きを耳にし、そこにいた先生はぴくりと肩を動かした

僕はそっと、そこにある先生の手と自分の手を重ねた

先生はゆっくりと目を開き、僕に視線を送る

「…ぱ、く……?」

先生の表情は驚きと喜びに満ちていた

先生はよかった、よかった、と僕の手を優しく撫で続けた

深呼吸をして、また僕をみる


「ほんっと…心配したんだからな」

意識はほぼ戻らない、戻ったらそれは奇跡だと告げられたらしい

だけど、僕にはどこか、記憶が無いという

それは一部分だけで全てではないらしい

先生はその一部分を探すために、僕にたくさんの質問をしていった



「…朴、俺の名前は?」

「…九瓏…ケント、先生、」

「…何の部活に入ってた?そのメンバーは?」

「…ダンス部、で…先生と…タツキ先輩と…アキラ先輩と…奏先輩…と、僕、」



「じゃあ…そうだな、誰かとの深い思い出ってある?」



「僕…誰かに、特別愛されてました…」

そのとき、先生の表情が少し明るくなる

頷きながら話を聞いてくれる姿は優しく、どこか懐かしかった

「え…あ…えーと…」

どうしたのと先生は心配し、優しく僕の手を握った

「思い出せないんです…どうしても」

「思い出せない?」

ああ、思い出そうとすると、頭が痛くなる

それと同時に胸も酷く痛んだ



「名前… あの人、誰だっけ…」

僕には少しだけ目が潤んでいるように見えた

「…ごめんなさい、」



「…ううん…気にしないで、ね…朴…」



そう言って病室を出て行った貴方は、とても寂しそうだった


…終…

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