春風、吹き荒れて

□第一章
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南校舎の最上階

北側廊下突き当り

未使用無人の音楽室。

そこを目指し、あるく陰が一つ。

(四つも図書館があるのに何でどこも騒がしいんだ?だいたい勉強する気ないなら帰れっての、お気楽ヒマ人集団なのかここの生徒は)

思いながら歩いていく。
足音を立てながら。

この子が物語の歯車を回す子。
やっと進みだす、十一年の時を経て・・・。



第一話

歯車は回り始める



「静かそうなところといえばあとはここくらいしか・・・」

扉を開ければそこはホスト部でした。

「「「「「「「いらっしゃいませ」」」」」」」

当然、人がいると思っていなかったこの子、もとい藤岡ハルヒは心臓をバクバクさせながら壁に手をついていた。

ハ「び、びっくりした・・・なんだこの美麗集団は・・・」

「「何だ男か。ちぇ、つまんないの」」

『まぁまぁ、男でもお客様に変わりはないんだから』

そう言ったのは、この物語の軸。
双子の常陸院光と馨。そして、神田瑞樹。彼らの物語。

「そうだぞ。瑞樹の言う通り男だって大切なお客様だ。桜蘭ホスト部へようこそ!!世にも稀な特待生の藤岡ハルヒ君!!」

こういったのが、ホスト部部長にして本家の物語の軸、須王環だ。
当然、初対面の人に名前を言われたハルヒは不思議に思い、名前をなぜ知っているかを問う。

『あー説明するね。市立桜蘭学院は一に家柄、二にお金。財あるものは暇を持つ。かくしてホスト部とは暇をもてあます高等部美麗男子七人が、同じく暇な女子をもてなしうるおわす。超金持ち学校独自の華麗なる遊戯なのでありました。で』

と、苦笑しながら説明した瑞樹の後に続いて、副部長の鳳鏡夜が話し出す。

鏡「うちの校風は庶民には敷居が高すぎるらしくてね、よほど図太い神経の持ち主でもなきゃ奨学特待生にはなれないだろうと言われてたんだ。これで君を知らなきゃモグリだろう?」

会って早々、図太い庶民のレッテルを張られ汗をかきながらも返事をするハルヒ。
そこでじっとしていた環が急にハルヒの肩を掴み語りだした。

環「そう!!つまり君は勇者だ藤岡くん!!学年主席だろうと君は学校一の貧乏人だ。雑草とののしられ下賤の民と蔑まれるかもしれない、いや!むしろされるだろう!いいじゃないか、貧乏万歳だ。勇者にとって大切なのは、その無謀ともいえる心意気なのだよ!麗しの世界へようこそ、大貧民よ!!」

どこまでも失礼な環だが、皆さまも知っての通り悪気はない。

『ごめんね、悪気はないんだよここの人たちみんな…まぁ、たまに悪気があるやつもいるけど。ちょっと・・・いや、かなり常識しらずな超お坊ちゃまなだけだから』

苦笑しながらフォローに入る瑞樹。と、この言葉を聞いて心外だと騒ぐ双子がいるが、この際はほっておく。たいしたことじゃない場合、絡んでいると話が進まない。

ハ「(あれ、もしかして常識人・・・!)いえ、自分は気にしてませんよ、此処の人たちはみんな感覚がおかしいのはここ何日かで学習したので」

『そこに二つ加えといて。金持ちみんなそんな感じってこと。ホスト部はほかの人の倍感覚がおかしい』

と、仲良さげに会話をしているとしびれを切らしたのか環は大声でしゃべり始めた。

環「と・も・か・く・だ!!噂のがり勉くんが男色家だったのは意外だが…どんなのがお好みかな?瑞樹、説明を!!」

指を鳴らし命令する環に、了解しましたとファイルを持ち、他のメンバーを整列させる。

ハ「ハァ…(興味はないんだけどなぁ…でも彼もどことなくダルそうだなぁ)」

『君が先ほどまで話していた彼は、2年A組須王環、うちのホストナンバーワンの指名率でキングだよ。ジャンル分けすると彼は王子系』

ハ「え、あんなのがキング!?」

環「あ!あんなの・・・・・・・」


『はいはい、落ち込まないで。めんどくさいなまったく。次に、眼鏡の人は鳳鏡夜。2年A組。うちの店長。ジャンルはクール系』

ハ「部長が店長じゃないんだ…(まぁ、あの人が影のボスっぽいもんなぁ…)」

『うちの部長は頼りにならないので仕方ないんだ。で、次に3年A組埴之塚光邦。通称ハニー先輩。見た目こそ幼くかわいらしいけどとても秀才。ジャンルはロリショタ系』

ハ「え!?さ、三年・・・!?」

『うん。次に同じく3年A組銛之塚崇。通称モリ先輩。ジャンルはワイルド系』

ハ「はぁ…(さっきから一言もしゃべってないなぁ)」

『次は、君や僕と同じクラスの常陸院光と馨。双子でBLをうりにしてるんだ。ジャンルは小悪魔系』

ハ「BL…」

『最後に僕のジャンルはお兄さん系。さて、説明は終わり、長々と聞いていただいてありがとうございました。御指名は誰になさいますか?』

長々と説明をした瑞樹だったが、指名することはないなと思っていた。きっとこの子は勉強しに来ただけなんだろうにと。
だが、そんなことに気づく訳のない環はというと。

環「さぁ、どんなのがお好みかな?
ワイルド系?ロリショタ系?それとも・・・
この俺にしてみる?いっちゃう?」

と、ハルヒの顎に手を添えカッコつけて言っていた。もちろんそういうことをされて喜ぶ女子とは違い、ハルヒはぞわっと鳥肌を立て、小さな悲鳴も上げ急いで離れた。

ハ「違います!自分はただ―」
み「ハルちゃん、ハルちゃんは勇者なの?僕、王女様を助けたお話聞きたいなあ!」

と、ハニーちゃんが言い出し、ハルヒの頭の方でぶちっというなにかが切れる音がした。

ハ「誰がハルちゃんだーっ!!」

ハルヒが怒鳴り、ハニーちゃんはめそめそと泣きながらモリ君のところへ行った。

ハ「とにかく!静かなところを探していただけですから!どうもお邪魔しまし―・・・」

と、後ずさりながら言っていたため後ろに飾られた花瓶を落とし割ってしまったハルヒ。絶望の顔をしてそれを何とか治せないか試みるハルヒにいう双子。

光「あーあ、校内オークションの目玉予定だったルネの花瓶が…」

馨「困ったねぇ…これ800万からふっかけようと思ってたんだよぇ。どーする?瑞樹?」

『んーどうするって言われてもね・・・困ったねぇ』

と、3人が話していると800万の事実に驚きの声を上げながら汗をだらだら流すハルヒが小さな声で声をかけた。

ハ「あ…あの〜べんしょ〜」

光・馨「できんの?指定の制服も買えない人が?だいたい何なのそのダサいかっこ。」

追い打ちをかけるように言う双子。こればっかりはフォローのしようがなく苦笑しながらハルヒを見る瑞樹。だらだらと汗を流しながら、これは父の服で…と服のことをこたえるハルヒ。

鏡「どうする?環」

と、環の方を見るとため息をつきながら豪華な椅子に座り肘をつきしゃべりだした。

環「あー…こういう諺をご存知かね?藤岡くん。「郷に入っては郷に従え」「金がなけりゃ体で払え」!!今日から君はホスト部の犬だ!」

ハ(あ、あんまりですお母さん。貴方亡き後金遣いの荒い父との生活苦節10年。必死の努力でやっと入ったこの学院で自分はホスト部とかいうわけのわからない軍団につかまってしまいました。)

態度急変し指をさしながら言いつける環。言いつけられ魂の抜けたハルヒ。それを見てため息をつく瑞樹だった。




「環君なら夏はどこへ連れてってくれる?」

環「君の行きたいところならどこへでも」

「環君の好きな音楽は?」

環「君が好きだと思うものを」

「今日はケーキを焼いてきたの、食べてくれる?」

環「君が食べさせてくれるなら」

接客を見学するハルヒだが、環の接客を見て引く。
所変わって双子のテーブル。

光「あっはは!そんでこいつってば徹夜で作ったデータ寝ぼけて初期化しちゃってさー」

馨「光!!その話は!!」

光「パニック起こして俺に泣きついてきて―…」

馨「光!!!ひどいよみんなの前で…」

光「馨…ごめんよ馨…あの時のお前があんまりかわいかったからつい…」

馨「光・・・!!」

「「キャー!!!麗しき兄弟愛よ!!」

ハ「なぜ、泣いて喜ぶ女子・・・よくわからん世界だ」

またも引き、ついには愚痴までこぼしたハルヒ。続いて瑞樹のテーブル。

「瑞樹くん、お兄様とけんかをしてしまったの・・・。私ひどいことを言ってしまって・・・」

『んーそっか、でも仲直りしたいんでしょ?なら素直に自分の気持ちを伝えるといいよ。大好きなお兄さんならなおさらね。』

「わ、私はだいぶ前に告白して振られたのがまだショックで…ひどい振られ方をして・・・」

『それはかわいそうに。でも、ひどい振られ方って言っても相手も傷ついているかもしれないよね。相手の気持ちも考えてみるのもいいんじゃないかな。それでもまだショックだったら僕がとびっきりの方法で慰めてあげるね』

「「もう十分癒されましたわ〜!!」」

ハ「確かに最後の笑顔は必殺だね」

鏡「あぁ、あの笑顔は厄介なんだ」

瑞樹の笑顔が厄介だという鏡夜にどういうことかを尋ねたハルヒ。すると、

鏡「アレをうっかり見てしまった部員まで顔を赤くしてしまうんだよ。あの笑顔はいつも出る訳じゃないんだがいつもいつもあの二人が見てしまってあんなことになるんだ」

といって、双子を指さす鏡夜。指さされた双子を見てみたハルヒは、あー・・・。と言ってしまった。双子は接客中にもかかわらず耳まで赤くして体育座りをして顔をうずめていた。時々チラリと瑞樹を見ながら。

鏡「ああなると、しばらく接客に支障が出てしまって厄介なんだ。」

ハ「な、なるほど…彼は人気なんですか?」

鏡「あぁ、うちのナンバーツーでね。それに、副店長とでもいうかうちの部のまとめ役のようなものでいい奴だよ」

ハ「(使える奴って聞こえた・・・)…凄いんですね」

と、指名データを見ながら言うハルヒ。それを見ながらにっこりと言う効果音がつきそうな笑顔で鏡夜が

鏡「当分、君は雑用係だ。逃げるのは自由だが…我が家には有能なスタッフがそろっていてね、ざっと100人ほど。君、パスポートもってる?」

それはつまり、日本に居られなくしてやるぞ。という意味で。それをたまたま見た瑞樹は、ハルヒかわいそうに。と苦笑した。そこで、接客していたお客が帰ったためハルヒのそばへ行くと

ハ「―…男とか女とか外見とか。なんでこんな部があるのかもさっぱり。人間大切なのは中身でしょう?」

と、話す声が聞こえた。それを聞いて瑞樹は、あ、この子いい子だ。仲良くなれる子だ。と、勝手に思っていた。その間に環が何やらグチグチとナルシストぶりを発揮しているため、声をかけた。

「ああ!『環、「うざい」よ』だ」

「え?」
『あ?』

と、声を合わせて環に言った瑞樹とハルヒ。当然二人に言われた環は落ち込み体育座りをし始めた。そこへ爆笑しながらやってきた双子。

光「すげー!!やっぱ強者だなお前〜!!!図太い庶民!」

馨「流石だよね!!あそこまでダメージ与えられる奴、瑞樹以外に初めて見た!!」

『それ、ほめてんの?バカにしてんの?』

光・馨「「褒めてるに決まってんジャーン」」

『どーだか・・・』

爆笑して、本当なのか嘘なのか分からないがそんなことを言う双子と冷たく返す瑞樹。それを見たハルヒは、

ハ(あんまり絡んでるとこ見なかったけど、この3人仲いいんだ。意外だな)

などと考えていた。流石にずっと落ち込んでいる環を見て不本意ながら機嫌取りをするハルヒ。

ハ「あ…あの〜〜〜須王せんぱ…」

環「キング。俺はここじゃそれで通ってるから」

ハ「ハァ…じゃあ…キン…」

光「あーちょっと邪魔殿下〜」

『馨〜次二人で接客だってって、まだ落ち込んでんの環?』

馨「うん、今いく。も〜邪魔!サボってないで働いてよ殿〜」

鏡「早く行け二人とも。環、指名客たまってるぞ」

キングに変わりはないが誰もそんな風に呼んでいないことを知ったハルヒ。言いかけた自分がバカバカしく思えたとかそうじゃなかったとか。
と、そこでまだ部活に来ていなかった3年ズが登場。

ハ「ごめーん、遅れたー」

そのまま指名客が待っている席の場所を聞き、テーブルに着いた3年ズ。

「ハニー君モリ君!待ってたのよー!」

ハ「ごめぇん。崇の剣道部終わるの待ってたらつい寝ちゃってー。んーなんかまだねむーい」

という、ハニー君を見届けた瑞樹は馨とともに接客に移った。


「あ!2人とも待ってたわ!!」

馨「ゴメンネー姫。殿に邪魔されちゃってー」

『遅くなっちゃったけど、しっかりお相手させてもらうよ』

「私、2人に聞きたいことがあるの」

馨「ん?なに?」

「お2人って付き合ってるって本当ですの!?」

馨「はぁ!?」

『なんでそのことを・・・』

「え!?ま、まさか・・・」

馨「だ、ダメだよ瑞樹!」

そこまで言ったら瑞樹の顎を持ちキスするかのような体制で

馨「今、そんなこと言って皆にバレたら僕抑え聞かなくなっちゃう」

『・・・いいよ。僕、馨と一緒に居るのに他人のふりなんてもう』

光「ちょっと!!人の弟とんないでくんない?!」

馨「光…!!ごめん、瑞樹。やっぱり僕光がいい!!」

光「馨…!!」

『・・・振られちゃった。心が冷え切った僕のこと君は温めてくれる?』

「も、もちろんですわ!!!」

という、子芝居をして接客を終えた三人。

馨「ちょっと、予定にないこと始めないでよねー」

『ふふ、ごめん。でも、顎クイの時顔赤くなってたでしょ?』

光「それ、僕も思ったー!!ていうか、よく瑞樹にしようと思ったネ。僕なら今更恥ずかしくて無理」

『僕も無理だわ、今更二人に顎クイなんて卒倒ものだよ』

馨「僕だって恥ずかしかった!!顔赤くなってんの知ってたんなら分かるデショ!?」

と、馨をからかって大笑いする光と瑞樹。からかわれた馨はまた顔を赤くして怒っていた。
たまたま通りかかった場所で環がハルヒに命令を下していた。

環「―・・・そして輝くおしん界のホスト星となるのだ!!」

と聞いた三人は

「「「おしん界のホスト星って、なに?」」」

と、顔を見合わせていたのだった。
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