紅の約束

□九話
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「ははは!やったぞ!私は伝説の鬼を復活させた偉大な――え?」


 それ以上耳障りなほどの男の声は続くことはなかった。
胴体と頭が離れ離れになってしまったからだ。頭は大きな手で掴まれている。


「ふむ、小さい身体で不安だったがスピードが少々あがったかの」


伝達してくれるものがなくなった胴体は、重力通りに倒れていった。
首元からは微かな主張のように血が噴出している。


「もう完全に身体が手に入ったならば貴様はもう必要ないな」



掴んでいる頭を自分の口元へ持っていき、頬を齧る。
少し咀嚼したら口の中のものを地面へと吐き出した。


「人間もまずくなったものじゃ」


口へとついた血を乱暴に拭い取る。
そして、頭を手から落としプチッと軽い音が鳴る。
名無しさんの足元が血で広がった。


「さて・・・」
名無しさんが振り向く。


「楽しませてもらおうかのぉ」
 

手を振りかざした。
「おい!避けろ!!」
 

アマイマスクが叫ぶ。


「ッ!!」


イアイアンが我に返り急いで横へと逃げた。


「なっ」


イアイアンのわずか一センチ横の地面が、抉り取られていたのだ。
名無しさんの振りかざした手の威力によって。


「ふむ、いい感じじゃな」


牙を見せて笑う。
名無しさんはイアイアンの首を掴んだ。


「ガッ・・・ハッ」


だが、すぐに離される。
アマイマスクが手刀を振り下ろしたからだ。
腕が切り離される前に手を離すしかなかった。一秒も待たず次へと攻撃を繰り出す。
名無しさんは一旦距離を置いた。


「はっはっは!血気盛んなのは悪いことではない」


アマイマスクは膝をついているイアイアンを見下ろす。


「・・・アイツと戦えないなら今すぐどこかへ行ってくれる。邪魔だから」


イアイアンはアマイマスクの言葉を耳に通すことしかできなかった。


「友情とか綺麗事並べてる場合?」


アマイマスクは名無しさんの元へと行く。
彼の猛攻がイアイアンの目にぼんやりと映っていた。


「・・・俺は」 


一体どうしたらいいのだろう。
アイツがああなってしまったのは自分のせいだ。
なら、どうやって責任を取ろう。アイツがして欲しいことは何だろう。
剣を握る。・・・それは、きっと、


「うおぉぉぉぉぉ!!」


剣を名無しさんにむかって振った。
しかし、肌一枚もかすめることはない。
それでもイアイアンは剣を振ることはやめなかった。
きっと望んでいるのは止めて欲しいことだ。
この現状を。
なら、戦おう。きっと、止めてみせる。
二人の攻撃は一度も名無しさんにあたっていない。
まるで遊ばれているようであった。


「そろそろ、飽きたな」


ぼそりと呟いたのをイアイアンは聞こえた。どういうことだ――と思った刹那、


「!!」


名無しさんの人間ではない手がアマイマスクの胸元を突き破っていた。
血を吐くアマイマスクの姿が一瞬夢のように思えた。


「アマイ!」


叫んだ瞬間イアイアンの身体が吹っ飛ばされる。
名無しさんはアマイマスクから手を抜き、イアイアンのほうへと歩いていった。


「ガハッ!グ・・・」


呼吸をする度、口から血が吐き出される。
痛みが全身へと回った。
名無しさんは立ち上がろうとしていたイアイアンの頭を掴み、床へと叩きつける。
イアイアンの視界が真っ白になった。


「どうした?もう頑張れぬのか?」


何度も何度も叩きつけ、イアイアンを投げ飛ばす。


「グッ・・・・・・あ・・・」


投げ飛ばされた先の背は木であった。
もたれかかり、イアイアンは動こうと思っても動けない。
頭から血が絶え間なく流れ片目が見えなかった。


「〜!〜ッ!!」
 

アマイマスクが必死にイアイアンへと叫ぶが出てしまうのは血ばかりであった。
再生が、遅い。


「またのぉ童よ。閻魔にはよろしく言っといてやる」


名無しさんが手を挙げる。
力が込められビキビキと鳴っていた。
ふっと、自分の隣で笑っていた過去の名無しさんが重なって見えた。
おそらく朦朧とした意識のせいだろう。
自然と、口が動いた。


「・・・すまなかった」

「?」
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