世知辛いヒーロー業界

□紳士的な振る舞い
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I市に怪人が発生したようだ。
応援要請の願いが、携帯から聞こえてくる。


「悪い……名無しさん」


スティンガーの弱々しい声。
怪人にやられているのか、声は途切れ途切れだ。
周囲の音も、破壊音が聞こえる。


「大丈夫か!? 今すぐ助けに行くから待ってろ!」

「名無しさん……トゥンク」

「元気そうだし、頑張れ」

「冗談だよーーーッ!! 早く助けに来てくれよぉーーー!!」


スティンガーの叫びを半分だけ聞いて、通話を切る。
バイクに跨り、I市へと急いだ。
早く、他の市に被害が出る前にその場に行かなくては。
I市へと着く。
街はそんなに被害は出ていないようで、市民も無事避難センターにいるらしい。
怪人がいるとは思えないほど、街は静かだ。
少し進むと、コンクリートの地面が血だらけな場所へとついた。
空中にはふわふわと浮かんでいるヒーローがいた。


「!、あんたA級の……」


S級2位のタツマキが既に終わらせていたようだ。
下にいる名無しさんに気づき、地面へと降りる。
そして名無しさんへと指をビシィッと刺した。


「おっそいわよ! もう私が1人で片づけちゃったじゃない」

「す、すみません……」


タツマキに怒られたことで、背筋が伸びてしまった。
それにこうしてS級と対面するのは緊張するものだ。
しかも2位。その強さは想像もできない。
目線だけ血まみれのコンクリートの地面を見る。
話では20体ほどいたはずなのに、たった1人で倒したとは。


『ク、クソが……!』


まだ1体だけ生きていたようで、触手のようなものがタツマキを襲った。


「タツマキさん!!」


刀を素早く抜き、触手を斬る。
攻撃してくる物が無くなると、刀をしまい銃を取り出す。
次の攻撃よりも弾丸が怪人の額を打ち抜く。
もう怪人は動かない。完全に倒しただろう。
タツマキの方に振り返り、目線を合わせる。


「大丈夫ですか、タツマキさん」


タツマキは口をパクパクして名無しさんを見る。
その顔は怒りで真っ赤だ。
自分より格下に守られたことが、プライドを傷つけたのだろう。


「ちょっと何余計なことしてくれちゃってんの!? あんなの、私1人で大丈夫だったんだけど!」

「ご、ごめんなさい」


怒られてしまった。
タツマキからしたら名無しさんは雑魚中の雑魚。
ライオンがウサギに守られるなど無いであろう。
確かに、あんな攻撃タツマキなら止めることができた。
怪我もせず、捻りつぶすことなんて朝飯前だ。
けれど、


「S級でも女性ですから。守るのは当然です」

「は、はぁ!? 何言ってんのアンタ!!? バッカじゃないの!!」


そう怒鳴ると、タツマキはまた宙に浮きどこかへ行ってしまった。
完全に怒らせた。
段々血の気が引き、寒くなってきた。
明日はどうなってしまうだろうか、ヒーローを辞めさせられるだろうか。
それとも超能力で辱めを受けるだろうか。


「あ、そういえばスティンガー!」


自分とタツマキのことで一杯だった頭が、スティンガーの存在を思い出す。
急いでスティンガーを探して、病院に連れて行かなければ。
明日、タツマキに何をされてもそれを受け入れるしかない。
この日、名無しさんは眠ることができなかった。
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