世知辛いヒーロー業界

□他人を踏みにじってでも
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ヒーローというのは、毎日が生死の賭けである。
いつ死ぬか分からない。今日も生きてて良かった、と刀を鞘に納めながら感謝するのだ。
そんな俺は今、命の危機にある。
今まで以上の緊張感と恐怖。焦り、震え。
冷や汗が背中をつたい、膝が固まる。
じりじりと、”彼”は距離を詰めてきた。


「俺のアツい抱擁を受け取ってくれ!! 名無しさんちゃん!!」

「ギャアアアアアアアア!!!」


ダッと名無しさんへとタックルの勢いで走るプリズナー。
叫びながら走る名無しさん。
驚きの目で彼らを見るのは、一般人か女性ヒーロー。
同情の目で名無しさんを見つめるのは、男性ヒーロー……もとい、ぷりぷりプリズナーの被害にあった事ある男性ヒーローだ。
可哀想な事に、名無しさんはたまたまC市の協会に用があり、たまたまプリズナーと居合わせてしまったのだ。
偶然が重なった悲劇。
どれだけ人命を救っていようと、神は無慈悲に試練を与えるものである。


「誰か助けてくださぁぁぁぁい!!」


そう叫んでも誰も助けてくれる人はいなかった。
信ずるは己の強さのみ。
協会内の障害物を駆使し、必死で逃げる。


「どうして逃げるんだ名無しさんちゃん! 久々に会えたというのに!!」


ヒーローでありながら服役という矛盾を抱えた巨躯の男に追いかけられて、逃げない者がいるのだろうか。
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