ご趣味は何ですか?

□七発目
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サイタマが肩を落として歩いている。
名無しさんはそんなサイタマに気にせず声をかけた。


「よっサイタマどうした」

「……」


サイタマは答えられない。いや、答えたくないのだ。
今日が金曜日だと勘違いしていた。今日は土曜日だ。
せっかくスーパーの特売日だったというのに……早く忘れたい記憶だ。
それだというのに名無しさんはサイタマの心を抉った。


「そういえば今日何で特売日なのにいなかったの?」

「!!」


落としていた肩をさらに落としてしまう。


「実は……」


サイタマは話した。日にちを勘違いしていたことを。
名無しさんは神妙な面持ちで聞いている。


「お前なら分かってくれるな……」

「……」


名無しさんは少しの無言。そして、笑った。
それはもう、草を揺らすほどの大爆笑。
暫くその笑いは止まらず、お腹の筋肉まで激しく動かすことだった。
サイタマは落としていた肩を上げ、今度は震わしている。
そしてパンチの構えだ。


「ごめん! ごめんって!! あーお腹痛い」


名無しさんは笑いが治まるまで、歩く足を止めてしまう。
サタイマも同じく止まってしまうのは、何故だろうと自分で思ってしまう。
きっと、名無しさんと少しの時間でも一緒にいたいと、思う気持ちをサイタマはまだ気づいていない。
やっと名無しさんの笑いが止まった。しかしお腹は痛いようで、片手でおさえていた。
もう一つの片手で持っていたスーパーの袋を、サイタマに差し出す。
名無しさんの行為が分からず、サイタマは首を傾げた。


「お裾分け」

「名無しさん……!」


サイタマの視界が揺らぐ。それは、絶望から一本の蜘蛛の糸を見つけたように。
差し出された名無しさんの手ごと掴む。
今心は晴れやかだ。


「ありがとう名無しさん……!」

「いえいえ」








次の日。
名無しさんは昨日作り過ぎた餃子をサイタマ宅へ持っていくところだ。
そろそろZ市に着くころに、怪人とサイボーグが戦っているのが見えた。
サイボーグの方が優勢だ。
怪人がもう動けない。サイボーグが掌を向ける。
サイボーグの掌に熱が集まっているかのように光った。
はぁ、やれやれ。名無しさんは仮面をつける。


「!?、何だ貴様は……」


目の前にいた怪人が消え、代わりにいたのは変な仮面を被った女。
お互い驚いている。
サイボーグの少年──ジェノスは、目の前に立つ女のこと。片手で大きい怪人を持っている。
名無しさんは少年の強膜が黒いからだ。
すぐに驚きが失せたのは名無しさんの方だ。
そして先ほど言われたことに対して返事をする。


「趣味で怪人をやっている者です」


サイボーグの少年の片眉が動く。
そして冷静に目の前のことを処理し、結果を出す。


「怪人だと? ならば容赦しない」

「どうぞー」


再びジェノスは手のひらに熱を集めだした。
溜めて出すのは早い。飛んでいる蚊すらも反応できないぐらい素早く熱を出した。
名無しさんは避ける。しかし、それを読んでいたジェノスは、パンチの構えをし名無しさんの前へ。
空気が圧縮され、放たれたような音。ジェノスのパンチが名無しさんへ向けて殴打した。


「なにっ……!?」


しかしジェノスがパンチした先には何もない。
生体反応は後ろにあった。すぐに追いかける。
そして、攻撃を繰り返したが一発も当たらない。
この感覚は、いや見たことのある動き。何も考えてないように避けているこの動きは、
まるで、サイタマ先生のようではないか!
向こうは自分より小さい女、しかもでかい怪人を抱えたままだ。
こちらが優勢なはず。はずなのに。


「クッ」

「おぉ速い」


攻撃が、いや髪一本すら相手に当たるイメージができない。
この勝負が終わったのは、名無しさんが呟いてからだ。


「さて、そろそろ終わりにするか」


ジェノスが寒気を覚えた。いや、機械の身体になったのだから寒気を感じるはずがない。
なのに、無機質ですら逃げるような感覚。
あぁ、これは知っている。昔、感じたことのあるやつだ。
これは──恐怖。


「ジェノス終わったか? ……て名無しさん?」


戦っていた2人が、声の方へ向いた。
途端ジェノスは寒気が無くなる。これは、安心からだろうか。


「先生!!」

「サイタマ。て……先生?」


お互いがまたしても驚く。
サイタマは面倒くさい顔をして、2人を落ち着かせた。
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