ご趣味は何ですか?

□一発目
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ドゴォン、ドガァン


そんな破壊音が町全体に響く。
ジェンガが崩れるように、
ドミノが倒れるように、
おもちゃの如くビルが崩壊していく。
そんな様子を、一人の男がモニター越しに見つめていた。
そしてモニターに砂嵐が流れると、男は立ち上がり


「行くか」


正義執行。
白いマントを羽ばたかせ、怪人の場所へ向かう。




壊れる鉄筋の轟音の中、小さく泣き声が混じる。
幼い女の子の声。


「うえーん……。パパー ママー」


そんな女の子を、二本の角が生えた巨大な怪人は見つめる。
怪人は、女の子に手を差し伸べた。
その差し伸べた手は大きくなり、女の子より巨大化する。
そのまま、女の子が握りつぶされ──


「!?」


空を握る間隔に、怪人は首をひねる。
今、誰かいた──?
砂埃をたどり、目線の先には白いマントと黄色いスーツ。


「何者だお前は」


ニヤリと、彼は笑う。


「趣味でヒーローをしているものだ」

「なんだその適当な設定は……」


ワクチンマンと名乗る怪人は、怒り始めた。
自分がどう生まれたのか、何故町を破壊するかなどを語っている。
白マントで黄色いスーツのスキンヘッドな彼……サイタマは退屈そうな顔で聞いている。
厳密にいえば、聞いてはいないのだが。
ワクチンマンは、いつのまにか先ほどより巨大化していた。
サイタマより何十倍もデカい。


「やはり人間根絶やしにするほかないようだ!」


サイタマは拳を握る。
そして、いつものように一発で終わらせようと──


「!?」


消えた、怪人が。
唐突の事にサイタマは目を丸くする。
拳を振るった数十メートル先に大きな砂埃が舞っていた。
砂埃が徐々にはれていく。その中にいたのは、少女だった。
少女が先程のデカい怪人を片腕で持ち上げているではないか。


「なにもんだ、お前?」


少女は仮面を被っている。
仮面を外さぬまま、サイタマに言う。


「趣味で怪人をやっているものです」

「へぇ。一応人間っぽいけど、倒してもいいのか?」

「えぇ、できるものなら」


ズドン……とワクチンマンを地面へ置いた。
余裕のある声色だ。
少女かと思ったが、声質と喋り方は成人している女性のようだ。
サイタマはもう一度、拳を握る。
姿形は人間そのものであったので、寸止めをしようと思い一撃を打つ。
瞬間、


「……!!??」


吹っ飛んだのはサイタマだった。
瓦礫に埋もれたまま、暫く動けなかった。
今何をされた?
そんな疑問より、サイタマの脳をいっぱいにしたのは、

こいつ強い!

久しぶりの高揚感に、自然に笑みが漏れる。
瓦礫の山から這い上がり、仮面の女性に向き合った。


「あれ、気絶してない……?」


サイタマが平然としている事に、彼女も驚いたようだ。
その声色は、少し興奮が混じっている。


「お前、強いな」

「貴方も強いですね」

「……久しぶりだぜ。強い奴と戦えるなんて」

「私もですよ」


それは相手も同じだったようだ。
また嬉しくなり、更に笑みが強くなる。


「「さぁ、やろうか」」
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