超お家帰りたい星人

□第六等星
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「暇だろう」


そう言って持ってきたのは数十冊の本だった
本は表紙の文字がかすれていたり、色が褪せてしまっていたりしていた
あきらかに最近読んでいるものとは言えなかった
本を床に落としてボロスは行ってしまった
数十冊の本が床へ散らばっているので何冊かは中身が開いている
ゆっくりと本へ近づいて確認してみたが予想通りだった
文字が読めない
本は横文字に変な記号が不気味に、淡々と綴ってあるだけであった
ちょうど暇つぶしに何か欲しいと思っていたのでありがたかったが、文字が読めないのでは意味がないではないか
まるで他国の文書である
手にとって見てみる。本の表紙はゴワゴワしており手触りの悪いタオル以下の感触だ
動物の皮だろうか。テレビで見た十九世紀の書物と実際にみているこの本とが似ているのでそう思った
一応パラパラと一通り本の中身を見てみる
カビの臭いが鼻をくすぐった
やはり読めない・・・か
意味のわからない記号ばかりが脳に入ってくるので、軽く眩暈すらした
他の本も同じように見てみたが、やはり読めないのであった
しかし、最後から二冊目の本は違った


「・・・え?」


読める
字は片仮名ばかりで読みづらいが、贅沢は言ってられない
表紙の触った感じは今までの動物の皮のようではなく古ぼけた紙のようだ
カビ臭いのは変わらないが
文字に集中し、穴が開きそうなくらい食いつく
片仮名ばかりなので、スラスラと読めずもどかしい
それでも内容を早く理解したかった
唯一読める書物なのだから
指で文字をなぞりながらゆっくりと読む


「チ・・・キュ・・・ウノ・・・キョウダ・・イ・・・!?」


地球の、兄弟。確かにそう書いてある
手が、震えた。いや、手だけではない。全身が震える
恐怖とは違った震え。自然に口角もあがっていることにも気づく
地球とここが何か関係しているということなのだろうか
本があるくらいなのだから、無関係ということはないだろう
早く続きを読もうとしたが、なにせ読みづらいことこの上ない
内容が脳にしなやかに入ってこないのにイライラする
頭を掻き毟ってしまう
いっそのこと、一回全部紙へ翻訳を書いてからのほうが早い
・・・ここに紙とペンはあるだろうか
本があるくらいだからあるのだろう
問題はそれをどうやって手に入れるかである
私は部屋に閉じ込められているし、ここには何もない
今度の食事を持ってきてくれた時に勇気をだして言ってみるしかない








「おい、飯だ」


そう言って入ってきたのは最初に食事を持ってきてくれた奴だ
黒くて太い触手が何本もあり、気色悪い
そんなこと、絶対に言えないが
ずっと見ていることに耐えられず真っ直ぐに奴を見ていられなかった
床を見る
カチャリ、とトレーが床へ置かれる音が聞えた
あぁ駄目だこのままでは。奴は帰ってしまう
思い切って奴のほうへ振り返った


「あ、あの!」

「何だ?」


やはり正面からみた奴は恐ろしかった
空虚を見つめているかのような顔にすぐ視線を逸らしたくなった
しかし逃げてちゃ駄目だ


「ペ・・・ペンと紙を・・・くださ・・・い」


この間の静かな間がとても怖かった
断られてしまったらどうしよう。ペットのくせに生意気だとか言われてしまったらどうしよう
一応敬語を使ったが、奴等にとっては”敬語”という言葉がないかもしれない
言葉が通じるだけでも奇跡なのだから


「ペンと紙?何に使うんだ」

「それは・・・えっと」


すぐに返事がだせなかった
本の訳を書きたいから、などと変な理由では貸してもらいないだろう
何もいい考えが浮かばず、考えれば考えるほど頭が真っ白になっていく
早く返事を出さなければ


「・・・まぁいい。ペンと紙か。仕方ない、もってくる」


そう言って奴は私に背を向けた
良かった。頭にはその言葉しか思い浮かんでこなかった
いつ、どんな時に殺されるかわからない立場であるため言葉の一つ一つに注意しなければならない
人外である奴等と話すのに、ストレスが伴うのであまり話したくはない
必要最低限の会話でやっていく
それよりも、紙とペンを手に入れることに成功した
少しの間待っていたら本当に持ってきてくれたのだ
紙というよりはルーズリーフが束になったようなものだが
私は本の内容を紙へ書き写すという作業をひたすらやっていた
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