超お家帰りたい星人

□第五等星
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結局私は逆らうこともできずにペットとなるしかなかった
身動きもとれず、小屋というなの部屋に閉じ込められて
それでもまだ心のどこかで逃げることや反抗することを考えていた
でもしょせん私が反抗したってボロスにとっては犬に手を噛まれた程度だ
もっとわかりやすく言うなら蚊が止まった程度
ボロスにとっては私の反抗などなんとも思ってないのだ
それでも、ほんの少しでも「ざまぁみろ」と笑ってやりたい
あの我侭の野郎に
とは言ってもそんな考えなど何も思い浮かばないのだけれど
・・・それにしても
暇だ。暇すぎる
この銀色の部屋には布団らしきものしかない
他にはもう壁と床
何もすることがないのだ
退屈なのも結構な苦痛だ
せめて本でも与えてくれればいものだが
活字はあまり読むほうではなかったが、それでも退屈をどうにかしてくれるならぜひ欲しいものだ
こうして文字について考えている内に根本的な疑問が思い浮かんだ
冷静になってきた今だからこそそんなことを思う
どうしてあいつらは私の言葉が通じるのだろうか?
あきらかに人外であるしまさか宇宙人が(確信ではないが)日本語を喋れるわけでもないだろう
ならどうしてあいつらは私の言葉を理解し、私もあいつらの言葉を理解できてるのか?
思い出したかのような疑問にひたすら唸る
一番最初に出会った緑色の宇宙人の言っていることは理解できなかった
では何故こいつらは?
そういえばこんな意味もわからない生物の中唯一人型をしているのもボロスだけだ
そこらへんも関係してくるのだろうか


「あーもー」


あまりにも広く深い疑問に頭の容量がオーバーしてしまい座っていた体制を床へ大の字に寝っ転がった
首を少しだけ動かしてみえてしまったのは銀色の壁に佇む白っぽいドア
一瞬頭に逃げられるかもと思ってしまった
いや、そんなことできるわけがないと振り払うがその考えは根を張ってしまう
根はどんどん広がり最終的には花が開いたかのような希望が見えてしまった
家に帰り、お母さんが迎えてくれ、座りなれたソファでお父さんの帰りを待つ
そんな未来をみえてしまった
そう思うと自然に体が動いた
ゆっくり、ゆっくり四つんばいになりドアへ近づく
白っぽいドアの近くになると、膝を起こし取っ手へ触れる
冷たい金属のような、コンクリートのような感触に感覚神経を伝わり中枢神経を通り、脳を無視して運動神経へ伝わったせいで身体全体が冷えた
しかし勇気をだなさいと
取っ手を力をいれて押した
中々重く少しずつしか動かないので体全体を使いドアを押していく
ズズ・・という音を響かせながら、やっと人が一人頑張れば通れそうな隙間ができた
軽く乱れた呼吸を整える
しかし強くなってしまった心臓の拍動は治まりそうにない
少しだけみえた希望が段々大きくなってきてしまった
希望という蕾が少しずつ開いていく
自然と笑みがこぼれてきてしまう
隙間にまず足を差し出し、除々に体を入れていく
ドアと壁に圧迫され少し苦しい


「んっ・・・!!」


ドアの淵を思いっきり押し、銀色の部屋の景色と変わって、廊下へでた
力の反動で倒れこむ
少し咳き込み辺りを見てみると、まるで突き当たりがないんじゃないかと思わせる廊下がずっと続いていた
まるでお金がかかった映画のセットのようだ
ブゥン・・・ブゥン・・・という機械音しか聞えない
壁についてある小型モニターみたいなものがチカチカと発光していた
希望の花がゆっくりと開いて咲こうとしている
逃げられる
もうそれしか頭になかった
どこが出口なのかがわからないが、逃げられるという確信を持ち、恐る恐る一歩前へでた
笑みが強くなり、足に力が入る
後ろにある右足のつま先に力を入れて走り出そうとした


「おい」


しかし、残酷にも希望の花は踏み潰された
可憐な花になろうとしていたのに一瞬にして壊され、ゴミにされる
奥歯を鳴らしながら振り返ると当然ボロスの姿
惑星のような瞳でこちらを見ている


「何をしている?」


声は怒っていない。むしろいつも通りだ
表情もいつものように変わらない
私は必死で頭を働かせていた
なんと言い訳をすればいいか
さっきまで逃げられることの考えしか頭に根が広がっていなかったので、また新たな考えが芽をだすのは困難だ
それでも何か言おうと小さく口をパクパクしてしまう
ボロスはそんな私をずっと見つめていた
そんなプレッシャーに耐えられず咄嗟に言葉をだす


「ト、トイレ・・・」

「トイレ?」

「トイレに行きたかっただけ」


よくありがちなセリフである
これで言い逃れできるものなのだろうか
その前に宇宙人にトイレという言葉を知っているのか・・・
そもそも排泄をするのかどうかである
ボロスはため息交じりに鼻で息をした
しまった。逃げようとしてしまったことがバレてしまったか
心臓が激しく拍動する
覚悟と恐怖にギュッと目を瞑った
だが


「排泄場はすぐそこだ」


予想外の言葉に「は・・・?」という言葉が漏れるのと同時に目を開ける
ボロスが指差す先には私がいた部屋の一回り小さい扉だった
ボロスをみてみると平然とした顔だった
まさか本当にトイレに行きたいと思っているのかこの男は?
あんなに挙動不審であったのに?
意外である
圧倒的存在感、畏怖、恐怖の塊である男が意外とアホであった
少しだけボロスに対する恐怖が、本当に少しだけ薄れた
これなら本当にいつか逃げられるのも夢ではないかもしれない


「あ、ありがとう」


でもまぁトイレに行きたくなかったわけではない
そろそろ膀胱が反応しる頃でもあっただろう
ここはお言葉に甘えてトイレに行かせていただこう
ボロスの指差す部屋の方へ首を戻し歩き始めようとしたら、小さくボロスの笑い声が聞えた
その笑い声に歩く足が止まる
もう一度ボロスのほうへ向く
ボロスは口の端を歪に上げて笑っていた


「まぁ・・・仮に逃げようとしていたとしよう」


その言葉を聞いた瞬間、心臓が止まるかと思った
交感神経が反応し、毛穴が収縮して鳥肌が浮かび上がってきた
内心焦っているのを悟られないように震えを必死で止める
その場から動けずボロスの言葉を淡々と聞くことしかできなかった


「そこの線から出ると首輪が反応して、電気が全身にまわるからな」


その言葉にやっと身体が反応し、勢いよくボロスのほうへ振り向いた
つまり・・・
私は部屋を出れたとしても、この範囲から出られないということなのか
この男はどこまで・・・!!
怒りがふつふつと沸いてきた
しかしこの怒りをぶつけてもどうにもならないことはわかっている
下唇を強く噛んだ痛みでやりすごす



「ペットが逃げられないように管理するのもご主人の役目だからな」


ボロスへ返事をせず無言でトイレへ行かしてもらった
希望という名の花はもはや花びら一枚も残されずに消えて無くなってしまった

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