超お家帰りたい星人

□第四等星
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どれぐらいの時間が経っただろうか
時計もなく、窓もなく景色がみえないので今が何時なのかがわからない
時間の感覚がなくなっているのだ
それでも体育座りのまま部屋の端っこにしばらく時間が経っているのは間違いないだろう
こんな何もない部屋で、殺風景の部屋に閉じ込められ、先の見えない絶望しか待っていない状況は精神を崩壊させる直前にまで追い詰められた
何とか自我を保っていられるのはただただ両親のことや友達のことを思い出せてるからだ
あぁ、お父さんいつも心配してくれたのに反抗してばっかでごめんなさい
お母さん私の世話をしてくれてたのに何も返せなくてごめんなさい
辛い時や楽しい時も一緒にいてくれて、どうでもいいことでも楽しかったのに友情なんて面倒だなぁなんて言っててごめんなさい
土下座でもして謝り続けるから、元の世界へ返して欲しかった
ソッとつけられた首輪を指先でなぞる
まるで自分が人間ではないような気がした
でもここでは人間も何も人権すらないのだ
・・・いや、その前にここには人間らしきものがいなかった
この先私はどうなってしまうのだろうか
ただそれだけの恐怖に震えているしかなかった
音もない部屋に自分の心音が響いてるようだった
しかしそんな恐怖と緊張の中でも人間は本能をおさえきれないらしい


「・・・お腹すいたな」


思えばここへ来てしばらくは経っているが何も口にしていない
さっきまでの激しい緊張のせいで喉もカラカラだった
喉の内側が干からびてしまったような痛みも感じる
その渇きと飢えがより一層未来の不安を増幅させた
シン、とした床へ寝っ転がる
温度はないはずだが、この静寂のせいで床がひどく冷たく感じた
空腹と乾きより睡魔が勝ってきたのだ
疲れをすべて床へ溶かすようにゆっくりと瞼を閉じた
瞼を閉じた暗い世界でこのことが夢だったらいいのに、と強く強く願った









「もうさー。ユナって本当うざったいよね。毎日毎日うるさいし。正直あのテンションについていけない?みたいな」

「わかるー」


親友たちがそう話していた
普段はユナとはあんなに仲良くしているのに
おにぎりを食べながらそう思った
あんなに楽しそうだったのにこんな悪口を言うなんて信じられなかった
私はただ黙って次から次へとでる愚痴を聞き続けた


「ねぇ、正直名無しさんもそう思うよね?」

「え」


ただ傍観者でいたかったがやはり一緒にお昼を過ごしているのでそうはいかないようだった


「私は――・・・」





ビクッと体が反応した
そのおかげで目が覚めた
ゆっくりと上半身を上げて辺りを見回すと銀色の世界―部屋だった
やはり今のは夢だったことに落胆する
妙に現実感のある夢を見てさらに元の世界へ戻りたいと強く思った
これならいっそ夢が覚めないで欲しかった
またしても乾いてしまったと思われた眼球から涙が溢れ出てきた
ポタポタと銀色の床へ雫が落ちる
形を残して床へ落ちた涙は皮肉にも綺麗だった
体内に残っている水分を無駄にしないためにも必死で涙を止めようとするが、自然現象に似たもので中々止まらない
止まれ、止まれと願っていると思い出したかのように胃が情けない音をたてた
そういえばお腹がすいていたのであった
人間、こんなに苦痛を感じている時でもお腹がすくとは
思わず自分を笑ってしまった
脳内で再生されてしまう晩御飯の情景
湯気がたつツヤツヤの白米に弾けるような音が聞えそうなから揚げ、みずみずしいサラダ
普段なら当たり前のように食べていたご飯が今では命を差し出してもいいくらいに欲している
とにかく胃に何か入れたかった


「おい」

「ヒッ!?」


いきなり声がしたので思わず短い悲鳴をあげてしまった
おそるおそる振り返って見ると黒色のデカイタコみたいな生物がいた
まず、ボロスでなかったことに少しだけ安堵する
しかし気は緩ませない
確かこいつはボロスに部屋の片付けを頼まれていて、一番ボロスの近くに居た奴だ
名前はー・・・何だったか
そのタコみたいな生物はたくさんある足の内、二本の足で銀色の板みたいなものを支えていた
あまりにもタコみたいな生物がデカすぎて銀色の板の正体がわからなかった


「どうしてボロス様はこんな貧弱そうな生物なんかを・・・」


物々と文句を言っている
文句を言いたいのはこっちだと言うのに
しかしそんな口応えはする気はないので黙ってタコみたいな生物から目を離した
ギュと目を瞑る
何をされてしまうのわからなかったのだ
痛めつけられるだろうか、罵られるだろうか
私はここで歓迎されてるわけがない
ペットとして、玩具としてここにいるのだ
良い扱いを受けるわけがなかった


「飯を持ってきてやったというのになんだその態度は」


飯、という単語で勢いよくタコのほうへ顔をむける
銀色の板がゆっくりと下ろされ私の目線までくると板の上に置いてある物がわかった
丸い透明の容器に透明な液体が入ってるものと、黒い器に白いリゾットみたいなものが入っていた
コトリと音を立てて床へ置かれる
私が手を伸ばせば余裕で届く距離に
お世辞にもその食事は美味しそうと言えるものではなかったが、極限にまで飢えてる私には口の中を唾液で溢れさせるのに充分だった
動物の本能のままに、目の前に置かれたエサへ齧り付く勢いで手を伸ばすが


「・・・っ!」


食事まで後一歩というところで手を止めた
これ以上は駄目だというように伸ばした手をもう片方の手で止める
自分の中で、飢えと戦っていた


「どうした?食べないのか」


ここで手をつけてしまったら言いなりになってしまうようで嫌だった
無理矢理用意された物達
用意された服、用意された部屋、用意された食事
こんなのまるっきりペットではないか
私は人間だ
私は人間である自分を捨てたくなかった
自分の腕に爪を喰いこませ、痛みで飢えを耐える
しかし胃は空気も読まずに音をたてた


「腹が減っているなら食えばいいではないか。変な意地を持って。まぁ勝手にしろ」


出て行くタコを顔を歪めながら睨んだ
しかしその視線はすぐに目の前に置かれた食事へいってしまった
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