短編2

□失恋したての女の子なら
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「あ〜ん聞いてよ名無しさん〜!!」

「どうしたのカマちゃん」

「あのね一昨日怪人が現れたんだけど、その怪人がね〜すごく素敵だったの。これは運命ってすぐにわかったわ」

「ふんふん」


とある喫茶店で紅茶とケーキをテーブルに、談笑する二人の姿
恋の話とは見ていて本当ならば和むものだが残念ながらもう一人は刀を持っているししかも男だ
しかし二人を囲う雰囲気は柔らかいものであった
楽しそうにお互い笑い幸せな時間だということは確実なことである
オカマイタチがおしゃれなカップの中で揺れるレモンティーを見つめる
その目は悲しそうだ


「でもまぁその怪人がカマちゃんとつり合わなかった運命だったんだよ」


微笑む名無しさんにオカマイタチは感激し口を結ぶ
名無しさんはフォークでベリータルトを一口に切ろうとする
だがタルトが固いらしく少し苦戦しながら切り、口へ運ぶ
口の中へベリーとソースの酸っぱさに中の生クリームの甘さが充満し幸せな気持ちになる
そんな名無しさんを見てオカマイタチも幸せそうに微笑む
名無しさんは道場の近くに住んでいて、たまたまオカマイタチと知り合い、連絡先を交換し、段々仲良くなっていき今の関係に至る
オカマイタチは喋り方や見た目も・・・まぁ、少々気をつけてはいるがそれでも男である
名無しさんは女だ
男と女。性別が違えどそこに確かな友情がある
だってこうして二人で合って、お喋りして、買い物して、笑いあって
二人はかけがえのない関係となったのだ


「あっ、ねぇこの後ここのお店行かない?」


名無しさんがスマーフォンの画面をオカマイタチに向ける
オカマイタチが覗いてみるとピンクと白で彩られるホームページ
見ればバスグッズ専門のお店である
ここから近い


「あのねカマちゃんに似合いそうだなって思う入浴剤とかシャンプーとかたくさん売ってるの」


手を合わせて笑う名無しさんにオカマイタチは胸を熱くさせた
一昨日の怪人と会った時や、他にもいい男と出会ったときとは違う胸の熱さ
きっと名無しさんだけに、こんな気持ちになるのだろう
この感情はきっと特別だ


「えぇ、もちろん!」


ずっとこの先も自分たちの関係は変わらないだろう
オカマイタチはそう思っていた








言いたいことがある、と連絡が来た
稽古とヒーロー活動で忙しかったので連絡がきて三日後に会うことになる
いつもの喫茶店で待ち合わせで、名無しさんは先にいた


「おはようカマちゃん」

「ごめんね名無しさん」

「ううん、大丈夫」


二人でいつもの席へ座る
テラスの奥から二番目の席が二人のいつもの場所であった
ここは晴れているならば陽がよく当たり暖かく、飾られている花も綺麗に見える角度なのだ
テーブルにはレモンティーとミルクティーが並べられた
ケーキはその日の気分によって変わる
オカマイタチはフルーツロールケーキを
名無しさんは抹茶パイを頼んだ
最初はやはり雑談から始まる
オカマイタチの仲間の話であったり、修行の話であったり
名無しさんの趣味の話であったり、お店の話であったり
それはケーキが食べ終わるまで続いた
お皿が空になり飲み物もカップの半分までとなったところで、名無しさんは手を膝の上に置いた


「でね、カマちゃん。本題なんだけど」


名無しさんは眉を下げて笑う


「私、引っ越すの」

「・・・えっ?」


名無しさんの言葉に口をつけていたカップを離した
まだ言葉が耳に入り脳が理解してないまま名無しさんの次の言葉を聞く


「お仕事でね、異動になったんだ。私がずっと夢みてた先に近づけるの。でも・・・」


場所を聞けばここから大分遠い
会えないこともないがこうして頻繁に一緒に遊ぶことはできなくなるだろう
オカマイタチもヒーローとしての仕事があり稽古もある
名無しさんは更に仕事が忙しくなるだろう
会えるのは一ヶ月にあるかないかぐらいだと予想される
オカマイタチはゆっくりと俯いてしまう
カップに入っている透き通った紅緋色に浮かぶレモンがゆらりゆらりと揺れている
そんな様子をオカマイタチは何も考えられない頭で見ていた
名無しさんとは、もうこうして一緒に雑談をすることはできないと言っていいほど遠くへ行ってしまう
一緒に笑って、一緒に買い物して、一緒に悩んで
そんな時間が無くなってしまうなんて想像できなかった
それなら自分はこれから先誰に相談したり話を聞いてもらったりしたりいいのだろう
それより、こんな楽しい時間無しでどうやって頑張っていけばいいのだろう
他の人では駄目なのだ。名無しさんではないと
名無しさんだからこそ、自分はこんなにも楽しいひと時を過ごしている


「・・・寂しくなるわ」

「そうだね、私も寂しい」

「引っ越しても連絡してね」

「もちろん」


その日は名無しさんの引越しお祝い品を買い物して終わった
買い物をして楽しい時間であるというはずなのに、心にぽっかりと風が通るような気持ちは抜けない
大切な友人の祝うべき門出だというのにオカマイタチは微妙な笑顔のままその日を終えた
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