短編2

□弱い自分なんて
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小さい頃から自分は弱かったし、泣き虫だった
だから自分を主張することんてできないしいつも周りの流れに身を任せていたと思う
親の言うことにも、先生の言うことにも、友達の言うことにもすべて頷いてきた
いざ危機になったら黙って俯いて世界を見えないようにしていた
世界を閉じているのは逃げているからではない。私は私なりに必死に戦っている
言いたいことはたくさんあって、でも、何から言っていいかわからなくて
順序を立てているうちに第二者は呆れて諦めて去ってしまうのだ
そんな性格だ。そんな人生だ。
弱くて惨めで情けないことなど自覚している
だが直そうともしなかった
だからこれは逃げ出すだけの自分に対する試練なのか、罰なのか


『全部。やろう。そうだ。全部。やっちまえ。そうだ。そうしよう』


人が激しい波のように、おぞましい声とは反対の方向へ逃げて行く
前方にはでかい、大きな、恐ろしい物体が家やスーパーやビルを破壊している
人波は恐ろしいものだった
必死の形相で逃げ惑う人々にも怖くなったし、目の前にもいる物体にも恐怖し膝が震え麻痺したように動けない
動く人々の中に、静止している私
当然その物体・・・怪人は私に注目した


『君は。怖く。ないのか。』

「あ・・・あ、」

『怖いか。そうか。どうして。怖い?。』


自分よりもはるかに大きい怪人はわざわざ頭だけを下げ自分と同じ目線で話しかけてくる
周りの悲鳴が何故だか遠くで聞こえる
頭に浮かんくる言葉はシャボン玉のように出てきてはすぐに消え、やがて白紙になる
体中の水分が涙により無くなっていく感覚に寒さを覚えた
怪人はそれでも私の目を見ている
怪人の大きな白濁の瞳には水分の膜がほのかにあり、惨めな自分を映し出している
いつのまにか周りは静寂になっていた


『君は。かわいそう。だね。だから。殺して。あげる。』


まばたきすらできないまま自分は死んでしまうのか
「かわいそうだね」だなんて。怪人にも同情されるなんて本当に自分は情けない
そうだなぁ。もう死んじゃったほうがいいかもなぁ
と、思っていた刹那


『!!??。な・・・に・・・』


「あーあ・・・またワンパンかよ」


目の前に大きな空洞
その奥には黄色いスーツを着たスキンゲッドの男性が見えた
やがて空洞はゆっくり閉じて行くように地へ倒れた
改めてみる黄色いスーツに白いマントを羽織った男を見る
頭皮が寂しい男は私のほうを見た
お礼の言葉を言おうとしたが出てくるのは涙ばかり
枯れたアスファルトをじっとりと微かに濡らした


「あ、あの、あり、ありが」


段々お礼も言えない自分に腹が立ってくる
どうして自分はこんなにも弱くて情けなくて


「おー。それより怪我ないか?」

「だい、だいじょ、ぶです・・・」


心配までしてくれるこの人は、なんて優しいのだろう
立ち尽くすことしかできなかった私に


「ごめんなさい・・・本当にごめんなさい。こんな、何もできないやつで・・・弱くて、どうしようもない人間で・・・」


お礼は言えないくせに自分を卑下する言葉は山ほどでてくる
口から溢れ出る負の吐き言葉は自分を包むようだ
ついには下を俯き、自分の袖を濡らした
嗚咽しか漏らさない私にこのヒーローはどう思っているだろう
きっと顔には表さないで、変な奴、と思われてるかもしれない
この涙はすぐに止まるものではないので、早く彼が立ち去ってくれるのを願うばかり
だが・・・彼は


「ありがとうなー」


頭に優しい感触
ふっと顔を上げてみると彼は私の頭に手のひらを乗せていて笑顔であった


「え・・・?」


どうしてお礼を言われたのかわからずほろり、と出たので涙は最後となった


「お前があそこで怪人の足を止めてくれなかったら被害いっぱいでてたかもな。俺が到着するまで足止めしてくれてサンキュー」


違う。違う。そんなんじゃない
足止めだなんてそんなかっこいいこと私なんかにできるわけがない
反論を言おうと思ったが、泣いていたせいで喉が締め付けられ上手く声がでなかった


「じゃあな」


赤い手袋を上に上げ、ひらひらと手を振った
私は白いマントが風にたなびく姿を潤いのない目で見ていた
やがて彼の姿が境界線より奥まで行ってしまったところで神経が思い出したかのように身体が動いた








家に帰った後は真っ先にパソコンをつけた
液晶に映し出される鳥の模様。ヒーロー協会のシンボルだ
ヒーロー協会のホームページで、私を助けてくれた彼を探す
おそらく怪人をたったワンパンチで倒すぐらいだからA級だとは思うが・・・
順番にスクロールしていくが中々見当たらない
B級でもない
そしてやっとC級にて彼を見つけた
C級二位ヒーローサイタマ。ヒーロー名は無し。つい最近Z市の巨大隕石破壊に協力し、順位を上げた
協会のホームページで手に入れられたのはこれだけだった
あの強さでC級なのが一番驚いた。ヒーローに詳しくないので強さの基準はよくわからない
それならばB級やA級はどれほど強いというのだ
いや、今はこんなことを考えている場合じゃない
ブラウザバックをして、次は「C級ヒーロー サイタマ」と検索をしてみた
そしてそこに出されたのは、罵詈雑言の嵐


「ヒッ・・・」


思わず怖くなりパソコンの電源を切ってしまった
直接聞いたわけでもないのに胸が痛くなる
どうして。どうしてあんな事を書けるのだろう。隕石破壊に協力しZ市を救ったではないか
なのにこの言われようは一体どういうことなのだろう
胸にモヤを抱えたままベットへ横になった
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