短編2

□どうせお前も
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自分の運命が変わる日というものは突然やってくる
例えば少女漫画でいうと、不良に絡まれてイケメンに助けられたり
空から妖精がやってきて魔法少女になったり
少年漫画でいうと、何かの力に目覚めたり
自分の命がなぜか知らない組織に狙われたり
現実でいうと、新しいことを始めたり
大切な人ができたときだったり
今回私の運命が変わってしまったのはどれにも当てはまらない
まぁ魔法少女にだなんて絶対にならないしやりたくもないわけだが
変わってしまった理由というのがくだらないかと思われるが、席替えである


「・・・嘘でしょ」


くじ引きの紙を持って黒板の前に唖然と立つ私
なんと隣がまさかのあの人だったのである
いまだ現実を受け入れられない私を慰めるように友人が背中を叩いた
ちなみに哀れみの目つきである
うるさいやい。だったら席交換してくれ
そう言おうと思った前に「席は交換しないから」と早々に言われてしまった
さすが友人。私のことよくわかってらっしゃる
さっさと席座れーと先生に黒板の前から追い出されたので仕方なく自分の席へ戻る
”元”自分の席だが
教室内はあっという間にがちゃがちゃとした小うるさい音でいっぱいになった
机の脚と床がこすれる音には掃除の時間に慣れてしまっているのだけれど
自分も周りと同じように重い机を引きずる
そして自分の席となる場所へたどり着いた
そして隣の席にはもうそこが元から自分の陣地であったかのように移動は終わっていた
新しい席になり、隣の席の人と喋ることなく私は大人しく携帯をみていた
ネットに蔓延る情報はみていて夢中にさせてくれるものだった
おっ!マッ○今度新しい味のシェイク出るんだ美味しそう
そんなことを思いつつ携帯の画面を眺めていたら


「だーちっくしょう!!テメェら早くしろよ!五時四五分までに帰れねぇだろうが!!」


怒鳴りだす彼に、教室の人達は金魚が跳ねるように肩が跳ねた
かくいう私も隣で肩が思いっきり跳ね、携帯を落としそうになってしまった
彼――ヒーローネーム金属バット君
彼の怒号に周りは速やかに机を運んだ
そう、これが運命が変わってしまったのです
私は割りと話すほうだし、かといってキャピキャピとしたきらきらの女子ではない
校則も守るほうだし、授業もきちんときいている
しかし特別頭がいいわけでもない
つまるところ私はザ・普通の人間なのだ
だからこそ不良とかきらきらした女子たちとはあまり話さない
というか私がほんのりと避けているというのもあるが
そんな私がまさか不良代表である金属バット君の隣になってしまうだなんて
いくら話そうとはしなくても、隣の席ならば話さなくてはいけないときがあるだろう
辛い。辛すぎる
こうして私の平凡な日はお別れを告げるのである







席替え一日目
金属バット君は私の十分後ぐらいに来た
ドッカリと足を当然であるかのように机に乗せている
・・・私が思うに、机に座ったり足を乗せる人は前世で椅子に恵まれなかった国に生まれてしまったのだと思う
前までその姿の金属バット君を見ていて怖いな、とは思っていた
だが、こう、目前でやられるとその怖さは十倍も増している
あぁ、何かパシリとかされたりしたらどうしよう
不良には嫌なイメージしか持っていない私は漫画でよくありがちなことが思い浮かんでいた
だが、そのイメージは存外違うらしい
そう気づいたのは二時間目の数学の時間であった
眠りに誘う先生の声を必死で耐えるためシャーペンをいじくっていたのである


「・・・あ」


するとシャーペンが金属バット君のほうへ円盤のように飛んでいってしまった
シャーペンは滑っていき金属バット君の椅子の下をもいってしまった
私とシャーペンの距離はそこそこになってしまう
うわぁ最悪
そう思うと金属バット君は、立ち上がり


「ほらよ」

「えっ、え・・・あ、ありがとう」

「おう」


まさか不良がわざわざ他人のシャーペンを立ち上がってまで取ってくれたのである
マイナスイメージしか持っていなかった私にとってこの出来事は周りからみたらひょんなことかもしれないが、かなり衝撃的なことだった
他にもあった
移動教室のときは一番最後の人が戸締りや鍵閉めをするのがうちのクラスのルールなわけだが
先生に部活の予定とトイレに行っていたら一番最後になってしまっていた
友人たちには最初に「先行ってていいよ」と伝えといてある
教室には金属バット君が一人いるだけであった
机の上に教科書やらノートやらが散らばっているのを見る限り、参考書を探していたのだろう
まだ授業に必要な参考書すら用意してない私が一番最後で決定である
めんどくさいな・・・と呟きながら机の中から参考書を取り出す
ふっとみると、いつのまにか金属バット君が窓を閉めてくれていた


「え、い、いや、金属バット君先いってていいよ・・・?授業遅れるし」

「そんなこと言ったらオメーもそうだろ。手伝ってやっから早くしろよ」

「ごめん・・・ありがとう」


割と整頓されてある机の中から参考書を見つけだすのは早い
参考書を片手に抱えてまだ空いている窓を閉めた
窓よし、カーテンよし、後ろのドアもきちんと閉まっている
戸締りは完璧だ


「ありがとう」


少し俯きめに言ってしまい、せっかくの感謝の言葉が暗いようになってしまった
まだ、優しいところをみたとはいえ直視するのは怖い
だってリーゼントにぼんたんに赤いTシャツ、怖くないわけがない
しかし金属バット君は気にしてないように


「おう。早くするぞ」


私は小走りで行くのに対して金属バット君はガニ股で歩いていた
当然、授業はぎりぎりになってしまった
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