短編2

□恋だっただなんて
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「おいさっさとしろブス」


みなさん聞えましたか
今のお言葉を言ったのが、あの眉目秀麗で俳優、歌手、ヒーローと非の打ち所がない神に認められたような人間であるアマイマスク様です
ブスですよ。ブス
こいつ・・・おっと、アマイマスク様がそんな汚いことを言うなんてほとんどの女性は信じないだろう
私だって信じなかったさ。最初は
スケジュール帳を確認しながらアマイさんへ駆け寄る


「アマイさんが歩くの早いんですよ」

「名無しさんの脚が短いだけだろう」


こいつぶん殴ってやろうか
しかしそんなことでもしてしまったら、その日には私は社会で生きれなくなってしまうだろう
だからここは深呼吸でもして落ち着くしかないのだ
アマイさんのマネージャーを始めてもう一年以上は経つだろう
それはもちろん最初は緊張や喜びや慄きがあったが、一ヶ月もしないうちに仮面は外れていった
イケメンで性格も良いヒーロー
それが世間一般のアマイマスクの像だろう
しかしそんなものは所詮虚像で実態はただの我侭坊ちゃんであった
しかも口も悪いしデリカシーもない
私にだけ罵詈雑言を浴びせてくるあたり拍手を贈ってやりたいです
他の人には柔らかな物腰のくせにな
あれか?ストレスを私にぶつけてるのか?
そりゃ芸能界なんて表面上は輝いていて、一般人にとっては憧れの世界だろう
しかし内面へ入っていけばそこが腐っている沼ということに気づく
沼に入ってしまえば最後
逃げられたとしても、ドロだらけの汚い格好で表面上にでられない
マネージャーという職業をしていて、そんな世界なのだと知ってしまった
確かにそんな世界でストレスが溜まるのはわかるが、それを他人に八つ当たりするのはやめろ
・・・まぁあれだな。ストレス発散に遊びに行くとしてもアマイさん友達いないからなぁ


「いった!?何よいきなり!」

「・・・なんとなく失礼なことを考えてると思ったから」


この野郎・・・読心術も心得ていやがった
私がアマイさんに言い返せないのはその言葉がその通りだからだ
どうせ私はブスで短足ですよほっとけ
アマイさんのマネージャーだなんて羨ましい!と言う人がほとんどだろう
その言葉待っていました!と言って代わって欲しいです本当


「コーヒーが飲みたい。さっさと買って来い。いつものやつだよ」


アマイさんのいつものコーヒー、とはあの有名なコーヒー屋さんの裏メニューである
ちなみにここから約三キロ離れている場所にあるのだ
マジで誰か代わってくれ








「アマイマスクさんにとって、大切なものは何ですか?」

「そうですね・・・。人との繋がり、ですかね。たくさんの人に支えられて今の僕があります。ヘアメイクさんやカメラさん・・・あなただって僕を支えてくれる大切な繋がりの一部です。もちろんこれを観てくださっている視聴者さんも」


お前よくそんなセリフを言えたな
おもわず笑いそうになってしまったのも仕方ないことだ
人との繋がり大事にしたいなら、もっと私との繋がり大事にしなさいよ
「休憩はいりまーす」というかわいいスタッフさんの声の後に優雅な息を吐く音
それだけで共演者の女性陣は周りに蝶をはためかせ花を咲かし胸に手をあて苦しがっている
すかさず、スタッフがアマイさんへ水を差し出した
アマイさんは笑顔でそれを受け取り「ありがとう」と言う
スタッフは顔を真っ赤にし、今にも倒れそうだ
何だろうかあの区別は。いや、差別か
私がさっき車をだして買ってきたコーヒー渡したらなんて言ったと思う?
「遅い。ノロマめ」
ですよ?
そういえば私アマイさんから感謝されたことなんてあっただろうか
必死で過去のことを引っ張り出してみても、そんな思い出がない
一番感謝するべき人に感謝してないぞ、お前
アマイさんとは違った、重い息を吐いてアマイさんのところへ近づいた


「はいよ。どうせ昨日もロクに寝てないんでしょ」

「ん」


せっかく人が気をきかせて、次の撮影に支障がでないようにホットアイマスクをあげたのに「ん」だけですよ
さっき人の繋がりを大事にしたいって言ったのどこのどいつですかー!?
大事にしたいなら基本の挨拶と感謝の言葉は大事ですよー!?
ホットアイマスクをつけて無防備なアマイさんに殴りかかりたい拳を片方の掌を殴ってやり過ごす
まぁ、まぁ、まぁ、まぁ、落ち着け
ぶん殴りたい程ムカツク奴だが、なんだかんだ頑張っているのだ
先日に体を張ったロケでも次の日は疲れをみせないようにしているし、自分の魅力を伝えるにはどのようにしたらいいのかも勉強している
それに芸能界の仕事だけでなく、ヒーローもやっているのだ
みんなの想像以上にアマイさんはストイックの生活である
私もそんなアマイさんのことは尊敬しているし、心配するに決まってる
だから案外、リラックスや疲れを取るアイテムは常備しているのだ
性格に難はあるが、意外にも努力家だ


「おい名無しさん。ゴミ」


だからマネージャーを大事にする努力もしようか
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