ご趣味は何ですか?3

□八十六発目
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誰かが言った
「それは何のためだ」

またとある人は言った
「それは誰のためだ」

また別の人は言った
「そんなことして何の得がある」

小さい頃夢を語った時にも同じことを周りから言われていた
どうして、他人に合わせなくてはいけないのだろう
どうして、他人のために何かをしなくてはないらないのだろう
どうして、自分自身のために生きてはいけないのだろう
何のために生きて、何の目的を持って人生を歩まなければいけないのか
子供の頃はよく悩んだものだった
自分が楽しく生きたい。自分の理想のように生きたい
けれど、周りは否定するばかりだ
この世に何十億といる人間に合わせて生きていくのが、苦痛だった
周りはそうではないみたいで、他人のために生きることが当たり前のようだ
おかしいのは自分で、自分が考えを改め直せばいいだけなのだがそれができなかった
私は、人間のように生きていくのが下手くそなようで
ーーどうやって生きていけばいいんだろう


「そんなの、適当でいいだろ。自分がしたいように生きたって世界は滅びねーよ」


とある少年がそう言った
あぁ、そうだ。それでいいのか
生きたいように生きたって、どうせ世界が滅びるわけではないのだ





オロチ、と言ったか
あの怪人は名無しさんの趣味を否定した
人生に置いて生きる意味と言っても過言ではない趣味をオロチは否定しただけではなく、蔑みや馬鹿にもした
つまり、生きている意味を否定されたも同然
名無しさんの逆鱗に触れるのは当然であった
その場でオロチとサイコスを殺さなかったのは、周りから潰そうと思ったからだ
ジワジワと潰していき、最後の一匹になったときの恐怖は計り知れない
無言で怪人を吹き飛ばしていく名無しさんの姿はまさに――怪人、と言ってもいいだろう


『……なんだ、貴様は』


四つある目が全て下へ向く
見下ろすのは自分より遥かに小さい人間だ
うっかり、踏みつぶしてしまいそうであった
蹴散らさなかったのは、その人間が持っていたものに興味を示したから
それは、自分の部下である怪人の生首
だが所詮下っ端の怪人
そこらのヒーローに倒されたとなっても怒ることでもない
ただほんの少し、この小さな人間しかも女が、怪人を倒したことに驚いただけだ


「ん?あー……もしかして貴方も怪人協会ってやつ?」


『だったらなんだ?』

「だったら、死んでもらうだけ」


瞬間、ゴウケツはその女を蹴り上げた
発言に血管が切れたわけではない。身体が反射的に動いた
言ってしまえば、恐怖で身体が動いてしまったのである
足をどける。そこには自分の大きな足跡が残っているだけ
目をこらしても見えないほど先ほどの人間の死体は見えなかった
きっと、小さすぎて見えないだけだろうと思い怪人協会へ急ぐことにした
遅くなってあのギョロギョロに嫌味を言われるのはウンザリだ


「大きさと強さは比例しないんだね」

『ッ!!』


自分が刻んだ大きな足跡の傍に、確かに踏みつけ、殺したと思っていた人物がいた
考えるより先に彼女へ拳を振り下ろしていた
ビルの窓が割れる音。コンクリートが粉々になる音。建物が折れる音
様々な破壊音がここら一帯に響く
呼吸さえ忘れるほどにゴウケツは彼女へ攻撃を繰り出す
そしてこれが最後とでも言うように、脚を高く振り上げた


「一人でダンスか?」

『――ッ』


声が聞こえた
聞こえるほうへ視線を向けると丸い頭とはためく白いマント、黄色いスーツを纏った男がいた
その男の存在に今の今まで気づいていなかった――?
自分との距離をあっという間に詰められ、何が起きたか理解できないままゴウケツの頭が飛んで行った
身体から噴き出た血はまるで暴れるホースの水のようだ
サイタマが着地する


「名無しさん何やってんだこんな所で」

「サイタマこそ」

「俺はたまたま」

「私は歩いてたら」

「お前はアイツら側じゃねーのか?」

「ううん。ちょっと今回は訳ありというか」


そこでサイタマが急に冷や汗を掻きはじめた


「やっべ大切なことを思い出した!」


突如現れたサイタマだあったが、回れ右をし走ってゆく
向かった先はゴウケツの頭が飛んで行った方向。武道スタジアムの方であった
慌てて走っていったサイタマに名無しさんはなんとなく付いて行く
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