世知辛いヒーロー業界3
□ごっこ遊びは
2ページ/2ページ
地下にあった怪人協会が浮かぶ。
そしてそのまま──落とした。怪人協会があった場所は、瓦礫の山だ。
瓦礫からいち早く出たのは、タツマキと複数の怪人が対峙している姿。
上に何かいる、サイコスだ。
「タツマキ! 上に何かいるぞッ」
その声にタツマキは素早く反応する。
サイコスがタツマキを襲おうとしていた。
タツマキの実力ならば、咄嗟の事でも反応できていただろう。
しかし、心理戦ではサイコスの方が上だった。
『ハハ! 今ので名無しさんも死んだな!!』
「!」
『落ちろ!!』
タツマキが瓦礫の山に叩きつけられた。
叩きつけられたことによる怪我はないが、脳にダメージを受けた。
頭から、鼻から、口から血が出る。
サイコスはヒーロー協会のことを一人一人調べていた。
スタッフであろうと、C級ヒーローだろうと。
名無しさんのことを調べるのは楽しかった。様々なヒーローが、名無しさんが弱点だということを知れたから。
名無しさんが捕まった時はガッツポーズするほどだ。すぐに殺さなかったのも、人質として有効だから。
タツマキですら、名無しさんの名前を出せばこうだ。
笑いが止まらない。
『このチビを殺すなら今しかない! やれ!』
血だらけの顔に、拳が入る。ブサイク大統領のパンチだ。
超能力が出せないタツマキは簡単に吹っ飛んでしまう。
吹っ飛んだタツマキをキャッチしたのは、黒い精子だ。
手に力を入れる前に、黒い精子の腕が炎によって千切れた。
「焼却」
ジェノスだ。ジェノスもこの戦いに参戦しようとしたが、一瞬で退場することになる。
ハグキによって、片手をかみ砕かれた。
そのことに気を取られ、もう片方の腕に分裂した黒い精子がいたのに気づいていない。
『お前らのターンは無いんだよ』
残っていたもう一つの腕も取られた。ジェノスは両手を失ってしまう。
タツマキは超能力で一掃しようにも力が安定しない。
怪人の圧倒的勝利とも言っていいだろう。
サイコスは微笑む。
「結果的には攻めて来てくれてよかったよ」
バングも参戦する。バングの本気のおかげでブサイク大統領とハグキと黒い精子を倒した。
かのように見えた。
サイコスがバングの動きを止める。その隙にホームレス帝が光の玉で攻撃する。
ジェノスの隣にいたボンブが倒れた。
「貴様ら……たった今バングが全て仕留めたはず」
『世の中そんな甘くねーよ。目覚ませって』
死の足音が、聞こえる。聞こえるのはジェノスだけか。
しかし足音は別の音になる。
キングエンジンだ。キングが怪人たちの前に立つ。
怪人たちが息を飲む。キングがどのように戦うのか分からなかったから。
ホームレス帝が動く。キングを試すようだ。
「足元を見ろ」
『!!!?』
「お前の立っている場所……ガレキが細かくてかなり不安定だぞ……危険だ……」
何を言っているのだ自分は。キングは後悔する。
ビビっているホームレス帝に黒い精子は笑う。無様な姿に笑うしかない。
『なーに……!!?』
黒い精子の動きが止まる。ホームレス帝が消えたから。
いや、消えたわけではない。倒れている。
なぜ?
見れば、ホームレス帝の足を誰かが掴んでいる。
そして、這い上がって出てきた。
「!!」
キングは出てきた人物に息を漏らす。
頼もしい人物。
「(やった……助かるかも。カオたんありがとう……!!)」
瓦礫の山から出てきたのは名無しさんだった。
誰が見てもボロボロの姿。血がいまだに出ている。満身創痍で、戦うことできるのか。
名無しさんは俯いたままだ。顔を上げない。
そのまま、ホームレス帝に馬乗りになり殴っている。
「かお……名無しさん氏……?」
キングが声をかける。しかし名無しさんにその声は届いていないようだ。
まるで、人が変わったように暴れているようだ。
『なにっ……ぎゃあああああ』
サイコスのメガネが割れる。フブキの超能力だ。
フブキは真っ直ぐサイコスを見つめる。
「一対一よ。かかってきなさい」
サイコスとフブキが戦っている間に、他の怪人たちは名無しさんを見ていた。
息が止まるホームレス帝。もう、力は無くなっていた。
最期に彼は何を見たのか。どんな顔をしたのか。それは名無しさんしか知らない。
ホームレス帝の最期の言葉は、「カミ」だった。
名無しさんは立ち上がり、黒い精子に向き合う。
『お前、あんまり調子乗るなよ』
「……」
名無しさんは黙ったままだ。黒い精子は、内心恐怖を覚えている。
視線が怖いから。まるで、怪人のような目だ。
黒い精子が分裂する。これは蹴られたから。また、増える。増える。増える。
増えたのに、名無しさんに攻撃が通じない。当たっているのに、名無しさんは何とも思っていないように次々殴りかかる。
戦っている相手が見えていないのか、相手がパンチングボールだと思っているのか。
名無しさんの攻撃は、命ある者に対して行っているとは思えないほど、容赦がない。
『(クソッ……! なんだコイツ!?)』
武器も持っていないのに、自分が押されているなんて!!