短編3
□転生先は 下
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名無しさんは歩く、歩く、歩く。階段をのぼる、のぼる、のぼる。
そして、叫んだ。
「広すぎーー!!」
エレベーターを探したがそんなものは無かった。
仕方ないので階段で登ったが先は見えない。
名無しさんはボロスの宇宙船を思い出す。あの宇宙船と似ている。
見学しようと、ゆっくり歩いているのがいけないか。走ろうかと思った時、大きな扉が先を塞いでいた。
扉を開ける。
そこには仁王立ちしている宇宙人がいた。
「よく来たな訪問者」
「あれぇ? ボロスじゃん」
「ここから先は行かせん」
「ここにいるということは……サイタマの部下?」
「サイタマ様を呼び捨てにするとは。無礼が過ぎるな」
ボロスが名無しさんへ飛び掛かる。
名無しさんはそこから一歩も動かず、上半身だけを動かしてボロスを避けた。
「ほう、少しはやるようだな」
「どういたしまして」
「だが、上にいるサイタマ様のもとへは行かせん」
「!」
ボロスが、雷のような速さで名無しさんへ横蹴りを入れる。名無しさんは動かなかった。
頭にボロスの蹴りが入る。その蹴りは常人なら頭が吹き飛んでいるだろう。
しかし、
「そうだ! ジャンプすればいいんじゃん」
本当に攻撃が当たったかと疑問に思うほど、名無しさんは無傷だ。それどころか、片方の手のひらにグーでポンとした。
閃いたというポーズだ。
「ありがとねボロス! じゃ」
「!!」
名無しさんが膝を曲げる
そして、跳ねた。
一瞬だ、一瞬で名無しさんがいなくなり、代わりにあるのは抉れた床と天井の穴。
ボロスは茫然と天井の穴を見つめていた。
「俺は強くなった。しかし失ったものは大きかった。感情を失うというのは中々辛いものだぜ。だから、壊すことで、殺すことで、感情を取り戻せると思った。だから破壊と殺戮を繰り返す」
「失ったものは髪の毛もじゃない?」
「やっとお前が来てくれて嬉しいぜ。A市を滅ぼした甲斐があった」
「人の話聞かなくなっちゃった」
「さぁ、戦おうヒーロー名無しさん!!」
「もうちょっと待って。ここひんやりして気持ちいい」
名無しさんは天井に刺さったままサイタマと会話する。
コンクリートは冷たくて、丁度よかった。
名無しさんは満足したところで、やっと顔を出し着地する。
そして目の前にいるサイタマに少し驚いた。
なるほど、その姿はまさに"悪者"。
いつもの黄色いスーツが、黒色だ。マントも赤黒い。まるで、血をほったらかしたような色だ。
サイタマが玉座から立ち上がった。
そして、地球を滅ぼすほどのパンチ。
「!」
サイタマが目を見開いた。
名無しさんが手を交差させて頭を守っている。
腕がビリビリした。あぁ、良かった。
パラレルワールドでも、サイタマの強さはそのままだ。
「ハ、ハハハハ!!」
サイタマが高笑いをした。
そして名無しさんの目を見つめる。
「なぁお前なら俺の忘れた感情をもう一回思いださせてくれるだろ?」
破壊、損壊、粉砕。
二人の戦いはどんな言葉適切か。
ただ言えるのは、二人は楽しそうに血を流していることだ。
サイタマが天井を突き破り、ジャンプする。
そして、下に拳を向けて降りてきた。
これは防げないと判断し、名無しさんはサイタマの拳が触れる前に横へと退けた。
その拳は床へ当たる。そしてそのまま、建物を真っ二つにした。
「あーーー!!」
名無しさんが叫ぶ。
「この建物貰おうと思ったのに!!」
サイタマはそんな名無しさんの言葉も無視し、またパンチを出した。名無しさんは笑いながら反撃する。
ガラガラと、瓦礫の下から出てきたのはジェノスだ。
目の前に黒いちょんまげが見える。ジェノスはそのちょんまげを引っ張り、ソニックを引っ張り上げた。
「何する金魚の糞!!」
「フン。助けてやったんだから感謝しろ」
二人の言い合いはすぐに止む。目の前で行われている戦いを見たから。
途端、恐怖で足が動かない。今すぐにでも、名無しさんへ加勢しないといけないのに。
立っているので精一杯だ。あの二人の戦いは、なんだ。死の恐怖か。
やっと一歩踏み出せたのはソニックの方だ。
「やめておけ」
後ろから声がする。
すると二人は自然と身体が動くようになり、後ろへと飛んだ。声の主と距離を取るためだ。
声をかけた人物は、ボロスだ。彼も先ほど瓦礫から出てきたのだろうか。マントが汚れている。
「何を言っている。あの勝負に加勢するなと言うのか怪人め」
ソニックがクナイを投げた。
ボロスはそれを人差し指と中指に挟んで止めた。
「勝負だと? あれはそんなものではない」
鼻で笑う。そして、ボロスは言った。
「あの二人がしているのは勝負ではない。喧嘩だ」