ご趣味は何ですか?3

□八十一発目
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少し歩いたところで、爆発音が町中に響いた
音は地面に振動し、そこへ立っている人たちにも伝わる
おそらく怪人の発生だろう


「お、私行ってくるね」

「先行ってていいの?」


どこから取り出したのか、名無しさんはすでに仮面を被っていて親指を立てた
その勇ましい背中を見送ってからキングはサイタマの家へ向かう
彼はたとえ名無しさんと一緒にいようと、自ら災害へ突っ込まなかった
できる限りなら目立ちたくはなかったから
今ここで自分に課されたのはサイタマからゲームを返してもらうことである
二人はそれぞれ一時的に別行動をすることになった







「あれ、タツマキちゃん」

「名無しさん!?」


爆発があった場所へ行ってみると、フワリフワリと浮くタツマキが上にいた
タツマキの服は浮くには最も適していないと思うのだがあえて名無しさんはツッコまない
超能力か、絶壁ワンピースというのか、何やらそういったものが働いているらしい


「あんたなんでここにいるのよ」

「そりゃ怪人がここにいるから」

「まだそんなことしてるわけ」


はぁ、とタツマキはため息を吐いた
”そんなこと”とはもちろん怪人を助けることである
複雑な思いなのだ
タツマキはヒーローで、名無しさんは怪人
けれどこの怪人は友人、と言ってくれた
初めてそんなことを言われた
仲良くはしたい。けれど、できない
一番タツマキが望んでいるのは名無しさんが趣味をやめてくれることであった
その可能性は未だ見られないようだ


「いやぁへへタツマキさん・・・交渉があるんですが・・・へっへっへ・・・」

「何よその気持ち悪い声!?」


徐々に下がっていき、やがて小鳥のように静かに地に足をつける
念力が完全に消え去っているようだ
蚊帳の外の怪人はとっくに気絶している


「ちょっと私この後用事あるんでここはお互いに引きませんか」

「はぁ!?あんたそんなことが通用すると思ってるわけ!?私はヒーローよ、見逃すわけないでしょ!」

「そこを何とか・・・・・・」

「と言いたいところだったけど・・・まぁいいわ。私も急ぎの用事があるし」

「マジっすかぁ!ありがとうございます!!」

「でも次は見逃さないわよ」


仮面を外してお礼を言う
市民は警報を聞いていてとっくに避難していた


「というか、用事ってフブキちゃん?」

「!。・・・違うわよ。協会関係。あんた今フブキがどこにいるのか知ってるの?」

「いやぁ今朝電話したら行くところあるって言ってたから」


タツマキの目つきが変わる
彼女の妹に対する過保護というのか、愛というのか
だがそれらの綺麗な言葉で表すには限度が過ぎており、狂気を含んでいた


「あの子もまた、あんなことをしているの」

「あんなこと?」

「群れを作って行動することよ。私が全部守ってあげるのに」


群れ、とはフブキ組のことを指していた
どうやらタツマキはそれが気に入っていないらしい
可愛い可愛い妹。自身の手で守り自身の手の中で生活させたいようだ


「うーん。でも群れを作ることは悪いことじゃないと思うけどなぁ」

「・・・あんたもそういうこと言うわけ」

「だって、友達がいっぱいいるのはいいことじゃない?」

「友達・・・・・」

「私たちもそうじゃん」

「!」


タツマキの頬をかすかに赤くなる
どうやら友達、という言葉が嬉しかったようだ


「ま、まぁ仕方ないわね!さっさと行きなさいよ!!」

「ふふ。ありがとー!今度おしゃれなカフェ行こうねー!!」


タツマキはもう一度自分の体を浮かせ帰っていった
さて、と名無しさんも気絶した怪人を抱える
タツマキの単独行動主義の気持ちはわかる
名無しさんもそれに似たようなものなのだから
自分の考えたように、思うように生きているのだから
だが、何故群れを作っていけないのか
まぁいいか、と思い怪人を運んで行った
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