短編2

□恋だっただなんて
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「カンパーイ!!」

「乾杯」


有頂天な私とは違い、恥ずかしそうにグラスを合わせせるキューティーフェイス君
チン、という音が広がり一瞬にして消えていく
中に入っている深紅色のワインがシャンデリアに照らされ揺れた
ここは少し高めなレストランである
お祝いのために予約まで取ってしまった
何でお祝いなのかというと、キューティーフェイス君が新人賞を取ったからである
この歳で取ったのはアマイさん以来だろうか
きっとこの先もっとブレイクし、アマイさんと肩を並べるだろう
めでたい。本当にめでたい
今日は私の奢りである。お給料はキューティーフェイス君のほうが多いだろうが、どうしてもお祝いしたかった
私にできることはこれぐらいだけなのが申し訳ない
気持ちはいっぱいっぱいだからたくさん食べてくれ


「・・・でも、僕がここまでこれたのは名無しさんさんのおかげでもあるんですよ。名無しさんさんがずっと僕を支えてくれたから成長できたんです」


あ、今ものすごく涙がでそう
ここまで育ってくれてマネージャーとしてはとても嬉しいことだ
これからもキューティーフェイス君を支えていきたい
目の前に置かれた食事を口に運びながらそう思っていると、キューティーフェイス君が私を見つめているのに気づいた
可愛い顔だが、儚げな視線に手が止まってしまった
瞳が揺れている


「名無しさんさん」


私の名前を読んだかと思うと、こちらへ身を乗り出してきた
顔が、近い
自然色に近い、透けるような碧い瞳が真っ直ぐに私をみつめていた
その綺麗さに身体が支配されているようだ


「・・・名無しさんさん。僕と、」


キューティーフェイス君の言葉は携帯の音によって遮られた
静かなレストランに、場違いな軽快な音楽が鳴り響く
その鳴らしている携帯が自分のだと気づき、支配されていた身体は正気を取り戻した
急いで携帯をみる
みてみると、知らない番号
通話ボタンを押し耳へ携帯を持っていった


「名無しさんさんっっ!!」


鋭い刃のような甲高い女の声が携帯を震わせた
思わず耳から離してしまった
すぐに戻したが
声からしてアマイさんのマネージャーちゃんだ


「も、もしもし?どうしたの?」

「名無しさんさん今!すぐ!!事務所にきてください!!今すぐです!!」

「え?え?」


こちらの返事も聞かず、電話を切られた
ツー・・・ツー・・・という音を暫しの短い間感情無く聞いていた
キューティーフェイス君が私の名前を呼んで我に返った
何があったんだろうか?あんなに怒鳴って
今わかることは急いで事務所に行ったほうがいいということぐらいだ
急いで自分の荷物を集める


「ごめんね!!ちょっと事務所行ってくる!!お金ここに置いてくから!・・・本当にごめんね!!」

「えっちょっ、名無しさんさん!?」


私はレストランを出て行き、車で事務所へ急いだ








事務所へ着き、履きなれないパンプスで走る
おかげで途中で転びそうになってしまった
ヨロめいても、構わず走り続ける
心臓が激しく縮んだり広がったりして呼吸が苦しい
そしてやっと目的の場へ到着した
扉を勢いよく開ける


「ちょっとどうした・・・の・・・」


扉を開けた瞬間、別の世界へ入ったのかと思った
それほど重い空気がこの部屋に充満している
黒い霧が一斉に私を包むようだった
肩が上がってしまい、息が少しずつしか吐き出せない


「名無しさんさんっ!」


マネージャーさんが涙目で私のところへきた
口を結んで泣いているのか、怒っているのかわからない顔をしている
刀を振るうように、アマイさんのことを指差した


「もう!!もう無理です!!あんな我侭に付き合ってられない!!アマイマスクさんがこんな人だなんて思ってなかった!!」


溜めていた物をすべて言葉というボールにしてぶつけてくるマネージャーちゃんに、肩に手を乗せて落ち着かせる
マネージャーちゃんはボールを一旦止め、野生の動物のように呼吸していた
アマイさんのほうを見てみるとまったく私達のことはみていない
椅子に座り、脚組腕組をして知らん顔だ


「・・・アマイさん何やったの?」

「別にいつも通りやってただけさ」

「いつも通りって・・・。何なんですか!!我侭ばかり言って!!私のこともっと考えてくださいよ!!」


マネージャーちゃんが怒っているのにアマイさんは変わらず知らん顔だ
少し間を置いてアマイさんはやっと私達のほうへ向く
しかし動いたのは目線だけだ


「考えるのは君のほうなんじゃないのかい?ずっと自分勝手に話されてて相手になってる僕のことも考えなよ」

「なっ・・・!!」


マネージャーちゃんの顔が赤く染まっていく


「もう!アマイさんのマネージャーやめます!!私から社長に言っておきますので!!それでは!!」


部屋を出て行くマネージャーちゃん
黒い霧が晴れていく
呼吸が大分楽になった
部屋に二人っきりになった私とアマイさん


「・・・アマイさん何したの?」

「別に何もしてないよ」


この人の何もしてないは何かやってるんだよな
いつもの我侭っぷりを発揮してしまったのだろう
でも何故?あんなに可愛いマネージャーだったのに


「・・・さて、僕にマネージャーがいなくなってしまったわけなんだけど。僕に新しいマネージャーが就くまで名無しさんが世話しろ」

「は!?」

「マネージャーがいなかったら困るだろ。そんなこともわからないの?」


う、うわぁぁ・・・このムカツク感じ久しぶり!すごい殴りたい!


「だってあの子僕が欲しい物全然持ってこないし、好みもわかってない。そんなんじゃ僕の傍にいる資格なんてないよ」


なんという我侭発言
これに腹を立てない生き物なんているの?
どう育ってしまったらそんなに自己中になってしまうのか
よく統率力が必要とされる学生時代生きてこれたね
しかも傍にいる資格って何で資格がいるんだよ
・・・って、ん?


「あの、」

「何」


私はそこそこ長い間、アマイさんのマネージャーをやってきた
つまり、


「私はアマイさんの傍にいていいという資格を持ってるんですか?」

「・・・」


答えはくれない
だが、アマイさんが質問をして返事をしてくれないときは大体肯定と考えていのだ
それがわかった時、熱がすべて顔に集まっていく
ちょっと待って。え
そして段々アマイさんのマネージャーをやめてキューティーフェイス君のメネージャーをやっていた時に考えていたことを思い出してきた
思えば私はアマイさんのことを考えていたのでは?
アマイさんとは違って
アマイさんはこうだったな
アマイさんはこれ嫌いだったな
常に彼のことを考えていたのでは


「まぁ、君は下僕だし僕の考えを熟知していて当たり前だから一番僕をサポートするのには適してる。僕のマネージャーは名無しさんしかいな・・・あ」


言ってはいけないことを言ってしまったようだ。口を押さえている
しかし言葉というものは後戻りできないものだ
しっかりと私の耳に脳に届いてしまった
さらに熱くなる
アマイさんもほんのり顔を赤くしていた
いや、いや、いや、冷静になろう
だが気持ちと反比例して身体を熱を帯びていく
何で私はこんなにドキドキしてしまっているのだろう
それがわかっているのに、必死で認めまいと強く気持ちを押し出す
こんな我侭な奴なことを・・・!!




認めたくないのはアマイマスクも同様だったらしい


「(クソ・・・口が滑って・・・!!)」


恋だと認めたくない二人が、素直になる日が来るのは大分先らしい
先がみえないほど遠いことだが、いずれ一緒になる終末はみえてた
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