短編2

□恋だっただなんて
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「だー!!もうっいい加減にっ!!しろっ!!」

「ちょっと耳障りだからやめてくれる」


私がガチギレしているのにも関わらず、アマイさんは涼しい顔だ
それどころか、鏡で自分の髪型をチェックしている
そんな姿にも怒りの沸点が限界を超えた
足音を子供のようにたてながら部屋をでた
扉もバンッと怒られてしまうほどの力で閉めてやった
ハイヒールの音が響く廊下を歩く
その音をまぎれもなく自分が立てているものだが
とうとう張り詰めていた糸が切れてしまったのだ
元々いつ切れるかわからない状態であったし、いつか我慢できなくなる日がくるのもわかっていた
それが今日であっただけだ
ふんだ。もう知らない。知らないんだからあんな奴
私がいなくて困るのはどうせアマイさんだし
そう思っていたら、後ろから肩を叩かれた
いきなりのことであったので変な声をだしてしまう。しかも女気がない
後ろを振り向いてみると、社長がいた


「しゃ、しゃしゃしゃ社長!?、お、お疲れ様です!!」

「いやいやいいよ。そんなかしこまらなくて」


ちょび髭が特徴の、社長であった
変な声をあげてしまったことを謝り頭を下げた
社長は私に頭をあげるように促した
おずおずと視界を社長の足から顔をうつす
社長は、そんな私をみても朗らかに笑顔でいた


「実は話があってね」

「話?」


とりあえず座る場所で、ということで事務所内にある休憩場所へ腰を落ち着かせた
コーヒーマシンが設置してあり、この場はコーヒーの膜が私達を包んでいるようだ
アマイさんはあまりここのコーヒーを飲まないんだよなぁ・・・と思い出しつつ淹れたてのカプチーノを口に含む
ほんのり甘い味が自分の疲れを癒してくれるようだ


「・・・で、お話とは?」

「あぁ。それはね」


正直、恐怖と緊張五分五分の気持ちがあった
説教されてしまうのでは。はたまたクビか・・・
人間、偉い人に呼び出されると何故か嫌なことばかり想像してしまう
たとえそれが喜報だったとしても


「実はね・・・アマイのマネージャーをやめてもらいたい」

「え」

「いや、聞いてくれ。実はこの事務所に新しいアイドルが入ることになったんだ。期待できる超大型新人。そのお世話に君にしてもらいたくてね。君は自分では気づいていないが素晴らしいやる気と根性がある。マネージャーをやるに当たって必要なものが。だから、彼の世話を・・・って名無しさん君?」

「・・・」


私の視界にはほとんどミルクティー色だ。ゆらゆら揺れているカップの中身を、虚空に見つめる
社長から言われた言葉がふわふわと頭を巡っているようだ
アマイさんのマネージャーを、やめる?
そんな・・・


「よぉっしゃ!!」

「!?」


夢にもみていたことに、その場でガッツポーズをしてしまった








「アーマイさんっ」

「・・・なんだいその気持ち悪い声は」


上機嫌のままアマイさんのところへ戻った
片手にはアマイさんが好きなコーヒーを持って


「いやぁーさっきは声を荒げてすみません。これ、どうぞ」

「・・・」


アマイさんは差し出したコーヒーを無言で受け取った
お礼を言われないのはいつものことだ
だが、アマイさんは私がいつもの調子でないことに気づいているらしく、眉をひそめている
怪訝そうな顔だ
鼻歌でも歌えそうなくらいご機嫌のまま、さきほど社長に言われたことをアマイさんへ伝える


「アマイさん。実は・・・私、アマイさんのマネージャーやめることになりました」

「は?」

「どうやら私は超期待できる大型新人君のマネージャーになるそうなんですよ。だからアマイさんには新しいマネージャーさんが就くそうですよ。写真みましたが私と違って可愛らしい人でした」


二人主演で私だけが演技を行っている舞台のようだった
相手役はセリフを忘れてしまったような
それに構わず、私は一人で進んでいく
物語も終わりを迎えるとこだ


「それでは今までありがとうございました。元気でやってくださいねー!」

「あぁ。お疲れ様」


それだけかーい
まぁ別にいいんですけどね。もう出会うことなんてないんだろうから
軽い足取りで部屋を出て行った
スキップをしたい気持ちを抑えながら社長室へ向かう
その、大型の新人君がどんな子なのか詳細を教えてもらうのだ
あぁ!これから我侭な坊ちゃんに振り回されない生活ができるだなんて!
だが、そんな楽しみな気持ちは進む足とは逆に段々遠のいていった
心臓に直接冷たい風が撫でるような感覚
心配になってきたのだ
アマイさんのことではなく、アマイさんに新しく就くマネージャーさんのことが
あんな我侭に振り回されて正気でいられるかな・・・?
まぁこれも運命だ。頑張ってくれ新しいメネージャーさん
君なら可愛いし、アマイさんも優しくしてくれるはずだ
私と違ってな!!
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