短編３
□Don't let me down…
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※ファムファタルという曲のパロディです。
→https://www.youtube.com/watch?v=FCj3rAeDfL0
※独自解釈有り
※ヤンデレ注意
※世界観や人間関係は漫画通りではありません
※少しエッチかもしれない
※少しアトミック侍夢もある
地獄はどんな所だろうか。
イアイアンは一人考える。地獄行きの片道切符があったら、買ってしまうだろう。
その切符に記された文字は見て見ぬふりをして。
どんなことが書いてあったとしても。
手元のペンダントを見る。
ペンダントの中身は美しい少年のような、少女のような。
誰が見ても、二度見するほど美しい人だ。
きっとこの人は、地獄行きだっただろう。
イアイアンの大切な人。決して幸せになれなかった関係だったけれども。
ふと、隣に優しい匂いが漂う。
見ると、イアイアンは息を飲んだ。
「初めまして」
そう言う彼女は、妖艶な笑みを浮かべてイアイアンを見つめる。
白い翼。隣にいるだけで心が安らかになる気持ち。
彼女の周りが輝いているようだ。
あぁ、この子は天使なのだと。本能的に理解してしまう。
名無しさんがイアイアンに近づく。
そして、天使に押し倒された。
「なっ……!」
名無しさんが、イアイアンの唇に人差し指を当てる。唇に熱が集まり、手足が冷たくなる感覚。
イアイアンは名無しさんに流されるままに、身体を許してしまう。
名無しさんがイアイアンの耳へ囁く。その声は誘惑を誘うような、悪魔のささやきのようだった。
唇に集まっていた熱が、耳へと流れる。まるで、名無しさんがイアイアンの全てを操っているように。
身体を重ねてしまったのは、流されてしまったからなのか。それとも、誘惑に負けたのか。
どちらでも良い。大切な人を失った穴が、天使によって埋められていくよう。
触れさせてほしい。狂わせてほしい。そう思ってしまう
毎日同じ酒を飲んで過ごしていたイアイアンの日々は、この名無しさんという天使によって変わった。
名無しさんの髪の甘い匂いと紅く染まる頬に、イアイアンは心を奪われてしまう。
次の日、目が覚めふらつく足で昨日の事を思い出す。
天使の誘惑。それはとても危ないものだ。早く、降りよう。まだ間に合うだろうか。
ペンダントを握る。そして、あの人の顔を思い出すようにペンタントを開けた。
懺悔するように、写真の中身の人物を見つめる。
すると、視界を塞がれた。
白く細い指。甘い匂い。
上を向けば、優しい笑顔の名無しさんがいた。その笑顔にイアイアンは胸が高鳴る。
「こんばんは。イアイさん」
「名無しさん……」
「何を、見ていたの?」
名無しさんの笑みは崩れない。
イアイアンは黙ってしまう。なんと言ったらいいのか、分からなかった。
俺の大切な人。そう言えばいいのに、何故か名無しさんに言いたくなかった。
どうして? きっと名無しさんに知られたくないからだ。
自分の過去を。大切にしてきた思い出を言いたくないのは、名無しさんとの未来を大切にしたいから。
イアイアンが黙っているのを見ると、名無しさんはイアイアンの唇を奪った。
何も喋られなくていい。と言うように。
イアイアンが驚いたのは最初だけだ。柔らかな感触に身をゆだねてしまう。
扉が開き、欲望が溢れ出る。その欲望に吞み込まれ、深く埋もれていくよう。
イアイアンは名無しさんの手を握る。
まるで、もう一度名無しさんに溺れさせて欲しいというように。
名無しさんはイアイアンの前へ移動した。そして、柔らかな手がイアイアンの身体に触れる。
「大好きよ、イアイさん」
熱のこもった声で言うものだから、イアイアンは我慢できない。
名無しさんの声と甘い吐息。背中から強く立てる爪の感触ですら、愛おしい。
忘れさせてほしい。あの人を。あの人との思い出を。
快楽が伝わるたびに、あの人につけられた、とうに忘れてしまった痕が疼いてしまう。
忘れるように、消えさせるように、無くすように。イアイアンは名無しさんの手を強く握った。
汗が名無しさんの顔や身体に落ちる。花に雫が垂れるようだ。
「名無しさん、愛している」
「えぇ、私もよ。だから」
私を失望させないでね。そう言っているようだ。
イアイアンは気づいていない。名無しさんの口から"愛している"という言葉を紡がれていないことを。
もし、それが分かっていたら。気づいていたのなら。愛を与えてくれないのならば。
愚かで哀れな結末になっていなかっただろう。
いや、イアイアンは本当に気づいていなかっただろうか？
哀れなのは、どちらだろうか。
イアイアンが大切にしていたペンダントを失くしたのはこの日だった。