【番外編】

□【柳原学園】誰よりも、大好き
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「俺は部屋に戻るッ!!」
「ゆ、悠ちゃん!?」


机に手を叩きつけてそう叫び、生徒会室を出て行ってしまったユーリ会長の背中を見て、俺は思った。
マジギレさせちゃったー、と。



***



事の始めは何てことないただの日常。
違うことと言えば、一ヶ月前からユーリ会長と俺が付き合い始めたってことくらかなー。
…なんて、軽く言ってみたものの未だに信じられない。
だって、あのユーリ会長と俺が!! 付き合ってるんだよ!?
ちょっとした事件があってその勢いで告白してしまった俺に返って来たのは、何故か切なげに目を細めて顔をほんのりと赤く染めたユーリ会長の「…おれ、も」という何とも可愛らしい言葉だった。
あぁ、もう可愛い、ユーリ会長が本当は俺様じゃなかったのも気にならないくらいに俺は夢心地だった。
というか夢心地すぎてまだ手も出せてないっていうね、ははっ。
…中等部の頃男子生徒を食いまくっていた俺はどこに行っちゃったんだろうねー。
そんなこんなで清いお付き合いをしている俺たちだったんだけど、このことは誰にも言ってない。
下半身ユルユルとか噂されてる俺と恋人とか広まっちゃったら、ユーリ会長の好感度が下がるかもしれないしね。
だから俺はいつものように風紀副委員長として生徒会室に遊びに来てたんだけど、その中で突然ユーリ会長がマジ切れしたわけ。
ぽかーん、と出て行ったユーリ会長を眺めている生徒会役員たちに焦る気持ちを隠しながら俺も退室の挨拶をそこそこに、ユーリ会長を追った。
ユーリ会長は言葉通り寮の自室に戻っているようで、俺も鍵を開けて中に入る。


「お邪魔しまーす…」


リビングに入ると、ソファに座ってクッションを抱き締めているユーリ会長。
あれ、もう素に戻ってるっぽいな。
俺がゆっくりと近寄ったのに、ユーリ会長はこちらに目も向けない。


「ユーリ会長ー?」
「……」


呼び掛けにも答えない、ここまでマジ切れしてるのは初めてだ。
実は俺、何でユーリ会長が怒っているのか分からないんだよなー。
生徒会室ではいつものように生徒会役員たちに萌えながらカップリング妄想をしつつ、俺のキャラを守りながら接してただけなのに。
俺が隣に座っても反応なし。
これは…困った。


「…ごめん、ユーリ会長。ユーリ会長が何で怒ってるのか分からない」
「……」
「俺何かした?」
「……」
「…もしかして、生徒会室来るの迷惑だった?」
「…っ」


俺のその言葉に、ピクリと肩を震わせるユーリ会長。
なるほど、ユーリ会長は生徒会役員にちょっかい出されて仕事が遅れてるのが嫌だったのか。
ちょっとでもユーリ会長に会いたかったから頻繁に通ってたんだけどなぁ。
でも仕方ない、ユーリ会長が嫌なら我慢しよう。


「そっかー、ごめんねユーリ会長。仕事の邪魔しちゃって」
「……」
「これからはあんまり行かないようにするから」
「……」
「生徒会役員の皆、びっくりしてたみたいだからフォローしてくる。落ち着いたらユーリ会長も…」


ソファから立ち上がった俺は、くんっと引っ張られて言葉を止めた。
目線を落とすと、ユーリ会長が俯いたまま俺の制服の裾を握っている。
表情は見えない、だけど何だか少し震えているように感じられた。


「ユーリ会長? どうし…」


どうしたの、という言葉は。
突然立ち上がって俺に口付けてきたユーリ会長の中に消えて行く。
俺はあまりのことに目を見開いたけど、目の前に切なげに目を細めて俺を求めて来る好きな人を目の前にして。
我慢出来るほど、達観出来てないんだよ俺。
俺はユーリ会長の後頭部を引き寄せ、もう片方の手で腰を抱き寄せる。


「んっ…ふ…っ」


ユーリ会長の空気が抜けるような甘い声が俺の欲情を刺激する。
あぁ、これはマズい。
そう思って理性を総動員させて唇を離そうとした瞬間、ユーリ会長がぎゅっと俺の身体に腕を回した。
放さないで、もっとして、そんなことを語るかのようなその行動に、俺は理性がプツンと切れた。


「ふぁ…っあ…ん…」
「ユーリ、会長…っ」


荒く、荒く、口付ける。
ユーリ会長の口内を凌辱し、歯列をなぞり、舌を絡め。
唾液が零れ落ちるのも気にせず、好きな人を貪る。
どのくらいそうしていたか、ユーリ会長の制服を脱がそうとしている自分に気付いた瞬間、理性が戻って来た。
やっべ、やりすぎた…っ!!
唇を離すと、ユーリ会長はくたん、と床に座り込む。
しかし俺の制服は握ったままだ。
俺は視線を合わせる為にしゃがみ込む。


「ゆ、ユーリ会長、ごめ…」
「な、んで…」
「え…?」


ポツリと呟かれた言葉に、説教が始まるかと身構えた。
だけど、顔を上げたユーリ会長の、泣きそうな表情に言葉を失う。


「何で、俺に構ってくれないんだよ…」
「…え?」
「いっつもいっつも、生徒会室に来たら…啓介とか、智也とかばっかり…」
「ユーリ、会長…?」
「今日だって、啓介に…、…っ」


ぎゅ、と力が込められた手に、俺は自分が勘違いしていたことを悟った。
ユーリ会長がマジ切れして、生徒会室を出て行く前、俺は何をした?
そう、いつもみたいに、会計クンに。
『今日の夜、俺の部屋に来る?』って、言った。
それはもう俺の習慣みたいなものだし、生徒会役員は絶対に頷かないということが分かっているから言えることだ。
逆に、生徒会役員も俺が冗談でそう言い続けていることを何となく分かっている。
だから会計クンだけじゃなくて、副会長クンや庶務クン、時々書記クンへのお誘いをしていた。
だけど。


「演技してる俺には言葉かけにくいだろうし、多分言われても俺は良い反応は出来ない。…でも、それでも俺…」


他の奴を誘ってるお前を見たくない、なんて。
くしゃりと泣くのを我慢するかのように歪めて言うから。
目の前の身体を、ぎゅっと抱きしめた。


「…つまり、ユーリ会長、嫉妬したんだ?」
「嫉妬…? …嫉妬…うん、嫉妬、した」
「他の子を誘う俺を見るのが、嫌だったんだ?」
「いや…いやだ。もっと、俺のこと見て、綾部」


そっと抱き締め返してくるユーリ会長に、ごめん、ぶっちゃけにやけてしまった。
だって、だって!! あのユーリ会長が嫉妬だよ!?


「俺ばっかりがユーリ会長好きだと思ってたんだけどなー」
「え…俺、お前のこと好きだけど…伝わってない?」
「いや、分かってはいるんだけど、俺の方がユーリ会長好きだろうなーって」
「嘘だ」
「ん?」


俺の腕の中で、ユーリ会長は顔を上げた。
その表情はむすっとしている。


「じゃあ、何で俺のこと抱かないんだよ」
「ぶっ!!」
「やっぱ、俺より啓介とか可愛い奴の方が良いんじゃないかって、俺…」
「ちょっと待って、お互い何か誤解が生じてる!!」


何てことだ、根本的な所からすれ違ってんじゃん!!
しまった、俺ちゃんと人を好きになったのユーリ会長が初めてだから気付けなかった。


「まず、俺がユーリ会長を抱かないのは…その…カッコ悪いけど、ユーリ会長が好き過ぎて、どう抱けば良いのか分からないんだ」
「どう、って…」
「ユーリ会長を傷つけたくないし、優しくしたい、気持ちよくなってもらいたい。だけど俺、そんなこと考えたことなかったから、どうして良いか分からない。だから、抱けなかった」
「そんなの、やってみなきゃ分からないだろ」


な、何て男前な言葉。
カッコいい抱いて!! とBL漫画宜しく言ってしまいそうだ。
でも現実はそうじゃない、大事にしたいんだよ。
悩む俺の顔を覗きこむユーリ会長。


「なぁ、綾部。俺も抱かれるの初めてだし、怖さもあるよ」
「だったら尚更…」
「でも俺、綾部にならどうされても構わない」
「…っ」
「一人で悩むな、だからって他の奴で試そうとかすんなよ」
「するわけない!!」
「じゃあ、俺と一緒に悩んでよ。…なぁ綾部。──俺はもう、受け入れる準備は出来てるぞ」


もう嫉妬させないでくれ、と手を広げてにっと笑うユーリ会長。
…ははっ、あー、なにこの恋人、超カッコいい。
柳原学園で一番モテるだけのことはある。
そんな男に、嫉妬させて、ここまで言わせて。
これで進まない、なんて、それこそ男じゃないっしょ。
ユーリ会長が広げた腕の中に入り、耳元で囁く。


「じゃあ、遠慮なく」
「ん、どうぞ」


あぁ、本当は怖いクセに、震える身体を悟らせないようにする俺の恋人。
可愛い、いじらしい。
大丈夫、大丈夫だから。
俺の進む道を示してくれた、恩人で、ずっとずっと、大好きな人。


「誰よりも、大好き」


ユーリ会長は目を瞬かせて、照れたようにはにかんだ。
ユーリ会長がそれに返そうと開いた口に、俺は即座に口付ける。
俺もだよ、という言葉は誰に聞かせることなく俺の中に消えて行った。




***

この後めちゃくちゃ(ry
多分生徒会役員たちは悠里が切れたことで何となく察したと思われる。
ネタに困ってどんなのが良いですかって前質問したら、
悠里に嫉妬させて!! ってコメが沢山来たので嫉妬させてみた。
しかし何ということでしょう、悠里が男前すぎる(笑)
ゲロ甘生活がこれから待ってるんじゃないですかね。
この作品の公開がエイプリルフールなのは偶然、本当に偶然。
(2015.4/1)
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