【番外編】

□過去拍手文
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(9/3執筆)

【柳原学園】第四章14頁
悠里と志春が寝室に二人きりになった場面
志春side



***


パタンと閉まった扉を見て、俺は松村を抱き抱えた。
くたりと力無く身を任せる松村を、ゆっくりとベッドに寝かせてやる。
身体測定の時も思ったが、コイツ身長の割りに軽い。
ちゃんとメシ食ってンのか。
掛け布団を掛けてやって、俺は傍にあった椅子に座った。
松村の母親が亡くなってンのは知ってたが、何だかめんどくさい事情があるみてェだな。
コイツ自体も訳ありのようだし、この際全部ぶちまけろって話だよなァ。

それにしても、寝室から出ていく時のあの夏希の目。
アイツクソ生意気にも、兄貴の俺に向かって松村に手ェ出すなよっつー視線寄越しやがった。
いくら俺でも具合悪い生徒に手ェ出すわけねェだろうが。


「ん…」


イライラしていると、松村が小さな声を漏らした。
起きるか、と様子を見守るが目を開ける様子はない。
顔も苦し気にしかめられている。
悪夢でも見てンのか、ご苦労なこったなァ。
松村の額に汗で張り付いていた髪を分けてやると、柳原学園で騒がれる顔立ちが明瞭になった。
火照った顔に手を添える。

コイツに抱かれたいと思うガキ共は論外だ。
コイツを抱きたいと思う奴らは、松村の本質を意識的にしろ無意識的にしろ捉えている。
確かに顔はカッコいいと世間で言われる顔をしている。
だが、内面から出る何かなのかは知らねェが、どうしようもなく儚く見える時がある。
そんな時に、俺はらしくもなく抱き締めて甘やかしたくなる。
しかしそれと同時に──どうしようもなく、欲情する。
泣かせて、鳴かせて、啼かせて、俺だけを見させて、俺だけにすがり付け。
そんな子供じみた独占欲に気付いた時は死にたくなった。
一回り以上違うガキに対して抱くとは思わなかったからな。
松村をじっと見詰める。
汗が流れて、つ…、と首筋を伝った。
苦し気に歪んだ赤い顔。
薄く開いた唇からは、熱い吐息が溢れ出す。


「…ぁ、っ」


魘されて時折溢れる掠れた声に、ざわりと何かが胸の奥で燻る。
そっと指で松村の唇に触れると、柔らかい感触が脳に伝わる。
それと同時に脳裏によぎったのは、保健室でキスした時の松村の表情と声。
鼻から抜ける、甘い声。
驚いたように見開かれた瞳。
それらが一瞬で思い出されて、俺は苦い顔で松村の唇に触れていた親指に自身の唇を寄せた。


「チッ…悉く狂わせやがって」


仕事には誠実。
松村からの評価だ。
だがコイツを前にすると、理性が働かなくなりそうになる。
半ば八つ当たりの呟きをして、松村の額に冷却シートを貼ってやった。


「テメェの為にこの俺が一肌脱いでやってんだ。…早く良くなって恩でも返せ」


もう一度松村の頬を撫でて、弟と混乱しているであろうガキ共の元へと足を進めた。



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