【番外編】

□【柳原学園】兄弟喧嘩
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「あー…、全校集会めんどくせェな」
「可愛い生徒たちが頑張ってんだから、ちゃんと見てやれよ兄貴」


柳原学園体育館。
現在、一時間目の授業の代わりに全校集会が行われていた。
空調設備もバッチリなそこでは、体育会系部活の大会報告がなされている。
今ちょうど剣道部だ。
壇上にずらりと並んで剣道着を着こなし竹刀を手にする剣道部員曰く、どうやら次の大会へ進むらしい、良いことだ。
そんな報告を他所に小声で喋っているのは、教師の定位置である壁際のパイプ椅子に座る柿崎志春と柿崎夏希。
志春は怠そうに髪をかきあげる。
すると近くに座っている生徒たちの顔が瞬時に赤く染まった。
それを見て、弟の夏希は苦笑する。


「兄貴、あんま生徒たちを惑わすなよ」
「ンなこといちいち気にしてられるか。勝手に欲情でもさせておけ」
「何イライラしてるんだ。寝不足か?」


すると志春は苛立ちを隠さずに舌打ちした。
これは相当だぞと、兄の話を聞く体勢に入る夏希。
志春は反対側の生徒会役員席にいる悠里に目を向ける。


「松村が俺のモンになって」
「…は!?」
「ベッドに押し倒してキスしまくって」
「えっ」
「ドロドロに喘がせて」
「な、なに…」
「やっと挿れるぞって時に」
「な…!?」
「目が覚めた」
「夢か…ッ!!」


がんっ、と椅子を鳴らした夏希に、壇上の剣道部を見ていた生徒たちがビクリとした。
それに気付いた夏希は、ははっと爽やかな笑みを直ぐ様浮かべて誤魔化す。
それにぽっと顔を赤くさせて再び壇上に目を戻す生徒たちに、志春は鼻で笑った。


「お前も惑わせてんじゃねェか」
「兄貴のせいだろ。紛らわしい言い方しやがって…」


はぁ、と息を吐く夏希に志春はククッ、と肩を震わせる。
そんな兄を半眼で睨んで、諦めたように肩をすくめた。


「まぁ、寝不足じゃないなら良いか。次話すことを考えて眠れなかったのかと思ったけどな」
「は? 次?」
「剣道部の次。保健医から健康に関する話してくれって頼まれて…、…兄貴」


夏希が隣を恐る恐る見ると、志春はあァ、と顎に手を当ててさらりと。


「忘れてたな」
「はぁ? 俺昨日も言ったよな、明日あるぞって…」
「仕方ねェだろ、忘れてたモンは」
「俺が言えたことじゃねーけど、しっかりしろよ…!」
「本当にテメェだけには言われたくねェな」


小声での言い合いは、お互いにしか聞こえない。
志春の反省の色も何もない物言いに、流石の夏希もイラッとする。


「俺は直ぐ反省するんだよ。暢気にエロい夢見てる兄貴とは違う」
「はっ、羨ましいのか? テメェには想像すら出来ねェだろうなァ。現実で松村のそういうの、見たことねェんだろ」
「は? 何だよそれ。まるで自分は見たことある、みたいな言い方…まさか」


顔を強張らせる夏希に志春は口の端を上げる。


「まァ、伊達にお前より一年長く生きてねェっつーことだなァ」
「…最低だな。どうせ最初らへんで止めたとかだろうけど、そういうことしてる暇あったら仕事しろよな」
「…テメェ、さっきから兄貴に向かって随分なクチ利くじゃねェか、あァ?」


弟の言葉に志春もイラッとして、隣の冷たい目を向ける夏希を見る。


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