【聖条学園】

□第三章
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結果的に言うと、俺の作戦は全て上手く行った。
庶民代表俺プロデュースの新歓鬼ごっこは、親衛隊持ちの人気のある生徒全員逃げる側にしてやった。
するとあら不思議、砂糖に群がるアリさんのように皆そちらに行くではありませんか!!
そりゃそうだ、貴志に花を渡すために俺を利用するという遠回りな関わり方しか出来ない生徒もいる。
そんな中で合法的に追い掛けられて、あわよくばタッチ出来て、特典として生徒会や人気の生徒にお願いできるかもしれないとなれば。
そりゃあもう、皆やる気ビンビンでしたよ。
俺? 真白先輩に教えてもらった秘密のお昼寝場所でゆっくり遠くの喧騒を聞いてたよね。


「おい、他のこと考えてんじゃねぇぞ」
「申し訳ございません、魔お…貴志様」


無事に終わった新歓に思いを馳せていると、横から鋭い声が聞こえ瞬時に謝った。
新歓後のGW、俺は貴志と街に遊びに出ています。
何故こんなことになってるかって?
さっき言った通り、俺は『親衛隊持ちの人気のある生徒を全員逃げる側にしてやった』んだ。
……そこには当然、この俺の幼馴染、佐伯貴志様も含まれていたわけで。
追われる側になったのが俺の企てだと早々にバレて、こういう行事に積極的ではない貴志様はとてもとてもお怒りになられた。
冗談ではなくマジギレである。
そこで貴志様が出した埋め合わせが、GWに街で遊ぶことだったのだ。
いや、そんな条件出されなくても普通に誘われれば遊ぶのに。
幼馴染を誘うのに条件としてじゃないと誘えない恥ずかしがり屋なの?


「可愛いんだからぁ〜」
「ここの飯、蓮の奢りな」
「待って?! 何故そのような格式高い所に行こうとなされているのか!!」


貴志の腕を掴むと、その顔がムカついてとしれっと言われた。
貴志にとってはお茶目な冗談でも、俺にとっては冗談ではないのだ、お財布的に。
I am 庶民、I am 特待生。イェア。
そんなこんなで俺のお財布にも優しいファミレスへ。


「貴志ってお坊ちゃまのくせにこういうとこに馴染むよな、他の聖条生徒とは違って」
「お前、【ウラノス】とも関わってた俺にそれ言うか?」
「ごもっとも」


確かに御曹司のくせして不良グループと昔から関わってた貴志に言うことじゃなかった。
というか庶民の俺と幼馴染という時点でお察しである。
お冷を持ってきた店員のお姉ちゃん、貴志を見て頬を染めてたぞ。
いつものことながら羨ましい。
料理を注文して、ふーと落ち着く。


「ってか、ごめんな」
「何が」
「いや、俺の都合とはいえ新歓でお前に迷惑かけて」


俺が謝ると、虚を突かれたように貴志は目を瞬かせて、ふっと目元を和らげた。


「素直に謝るなんて、"可愛げ"があるな?」
「お前それさっきの意趣返しだろ」
「もう良い、怒ってない。自衛のための最善策だった」


むしろ良くやった、とドリンクバーのコーヒーを飲みながら貴志は褒めて来る。
ほ、褒められた…照れる…いやでも待てよ。


「それが分かってるなら、何であんなにキレたんだよ」
「お前にとっての最善策でも、俺にとっての最悪策だったからだ。どっちの立場で捉えるかで変わるに決まってるだろう」
「えぇ…めっちゃ怖かったのに…」


さらっと言う貴志。
つまり貴志は自分よりも俺のことを考えてくれているから、もう怒りはないと言外に言っている。
コトリとカップを置いて貴志は、あぁでも、と言葉を続けた。


「俺にとって最悪、ではなかったか」
「? どゆこと?」
「俺にとっての最悪は、お前が親衛隊に襲われて、お前が傷付くなり望まない形で『能力』を使うこと」


そう考えると最悪じゃなかったな、と貴志は振り返る。
いつものように、それが当然だとでもいうような様子に、俺は思わず顔を覆った。


「どうした、蓮」
「貴志がカッコいいよぉ〜助けてぇ〜」
「惚れたか?」
「惚れ直した……付き合って…」
「だが断る」
「初恋は叶わないって本当だったんだね…」


さようなら恋心…と言いながら、くしゃくしゃに丸めたストローの包装を貴志の方に弾いた。
するとご丁寧に弾き返されてしまった。
可哀想に、返品された恋心である。
何か余程楽しかったのか、珍しく貴志がははっ、と声を出して笑っていた。
怒ってるだの何だのの話はここで終わり、ということだろう。
外見も内面もイケメンな幼馴染である。
運ばれて来た料理を食べ終わり、さて貴志様の分を奢らせて頂こうかなと財布を取り出そうとすると、さっと貴志が伝票を取って。


「俺が誘ったから俺が払う。俺は『お坊ちゃま』だからな、気にするな」


と颯爽とレジに向かって行ってしまった。
ほ、惚れてまうやろぉ〜!!


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