【聖条学園】

□第三章
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祐介は立ち上がった俺を見上げ、眉根を寄せる。


「あいつらに何もされてねぇか」
「あいつらって?」
「…真白とか、神谷とか」
「先輩たちに? パソコン入力任されたりしてるけど?」


祐介は俺の答えに未だに眉根を寄せたまま、そうかと頷いた。
って言うか、あの超絶人気者且つ二年生の生徒会役員を呼び捨てにするお前にびっくりだわ。
祐介はあれだな、親衛隊を作られちゃう側の人間だな、うん。
そろそろ行かなきゃだから、と祐介に挨拶しようと思った瞬間。
ブーブーブー、と俺の携帯が震えだした。
誰だよ、と携帯のディスプレイを見た俺は、ピシリと固まる。


「……やべ」
「おい?」
「ごめん、ちょっと電話…」


やばい、やばいぞ。
生徒会や奏よりもやばいお方からの電話だ…。
ピッ、と震える指で通話ボタンを押す。


「は、はぁい、如月蓮でぇす…」
『……そのふざけた返事で、無事なのは分かった』
「さ、さっすが〜」
『…………』
「…………」
『…………』
「…………っ、すみませんでしたぁぁぁぁ!!」


俺は目の前に居もしない相手に、がばりと頭を下げた。
その相手とは、魔王様…もとい佐伯貴志様でございます。
貴志が、昼休み親衛隊から逃げて音沙汰無しの俺を心配しないわけがない。
そして無事だったと分かった貴志は、今頃超怒ってるはず。
イキナリ頭を下げた俺に、祐介の驚いたような痛々しい視線が突き刺さる。
でも、そんなものより貴志の沈黙の方が何倍もダメージを受けるんだって。
貴志の沈黙は超怖い。
暫く沈黙が続いていたが、電話口からはぁ、と溜め息が聞こえた。


『…まぁ、無事なら良い。どうせ寝てたとかいうオチだろ』
「せ、正解〜」
『ったく…あまり心配掛けんな。掛けるなら目の前に居てくれ』
「…うん、ごめん。大丈夫だから。ありがと」


貴志の言葉に、つい笑みが零れる。
ほんと大事にされてるな、とか思ってさ。


『で、今どこに居る? 生徒会室まで送る』
「大丈夫だよ。放課後はあの子たち追いかけてこないし」


実は、生徒会親衛隊は俺が雑用に行く放課後には手を出してこないんだ。
どうやら俺が雑用し始めてから、真白先輩たちの笑顔が増えたらしい。
十中八九仕事が減ったからだと思われる。
それに比例して俺の仕事は雑用係の範疇じゃないぐらいに増えてる気がするんだけどね。
そんな笑顔を絶やさないように、放課後は俺の安全が暗黙の中守られてる。
だったら最初から手ぇ出してくんなとか思うけど、理屈じゃないんだろうな。
その暗黙の了解を知っている貴志は、少し黙る。


『…分かった。ただし、何かあったら直ぐに連絡しろ』
「はーい、分かったよ母さん」
『誰が母さんだ』


第一、俺が百合さんになれるわけがないだろ、という貴志の台詞に思わず吹き出す。
確かに、貴志が母さんみたいなふんわり系になるのは無理だ。
あと、能力はあまり使わないように、という忠告を最後に電話が切れる。
相変わらず過保護だなぁ、貴志は。
携帯をポケットに入れたのを見て、祐介が首を傾げる。


「母親か?」
「ぷはっ、違う違う。幼馴染みの佐伯貴志。教室来たら、紹介するけど?」
「…学校に行く気は、ねぇよ」


ぐっ、と拳が握られたのを見て、ふーんと相槌を打つだけにする。
何があったのか知らないけど、だからこそ首を突っ込む境界はしっかりしないといけない。


「じゃあ、俺行くから」
「蓮」
「ん?」
「…俺の、ことは、誰にも言うな」
「? 分かった」
「あと、……また、ここに来い」


その言葉に俺は目を瞬かせて、にこーっと笑う。
なぁんだ、祐介やっぱ誰かと喋りたいんじゃん。
ただ、今更教室に行きにくいってだけかもしれないな。
じゃあ俺はそのリハビリ要員ってわけですね、了解です。


「うん、また来るよ。良い避難場所でもあるし」
「…避難場所…?」
「じゃあな、祐介ー」


バイバーイ、と手を振って俺はその神聖な雰囲気の場所から抜け出した。
祐介はその背を見送って木にもたれ掛かる。


「…如月 蓮、か」


そう呟いて、蓮に握られていた自分の手を見詰めた。




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