【柳原学園】
□第六章
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「おい」
その時、悠里の背後から声を掛けられた。
桐生の目には会議室から出て来た御子柴の姿が映っている。
相変わらずの凶悪顔に桐生はひゅっと姿勢を正した。
「何風紀の教師イジメてんだ」
「えっ、僕が虐められる側ですか」
「じゃあイジメてんのか?」
「滅相もない!!」
ぶんぶんと手を振る桐生は、ふと目の前の悠里の表情を見て目を小さく見開く。
しかしそれも一瞬のこと、悠里は御子柴の方は見ず桐生に小さく頭を下げた。
「では桐生先生、例の三人のことお願いします」
「は、はい、分かりました」
「おい。無視すんじゃねぇ」
そのまま立ち去りそうだった悠里に御子柴は眉を顰めながら更に声を掛ける。
それにようやく振り向いた悠里に御子柴は微かな違和感を抱いた。
「お前…」
「何か用か、御子柴」
「……、…いや」
「用もないのにこの俺に話しかけ…、…用がないなら俺はもう行く」
「…あ?」
悠里の変な口ごもりに御子柴は片眉を上げるが、悠里は話は終わったとばかりに生徒会室へと去っていった。
その背を眉間にシワを寄せながら眺める御子柴に、桐生は二人を見比べながら問う。
「…喧嘩? でも、したんですか?」
「…いつものことだろ。犬猿の仲だからな、"風紀委員長"と"生徒会長"は」
「そう、ですか」
「つーか、何の話してたんだ」
「え?」
「さっき。アイツと」
"犬猿の仲"と言った先からのその質問が予想外だったのか、桐生は目を瞬かせる。
しかし先程の悠里との話には悠里の個人的ものも含まれていたため、桐生は差し障りのないことを口にした。
「これから文化祭で忙しくなるから、くれぐれも例の三人をよろしくと、念を押されていただけですよ」
「…そうかよ」
その答えで納得したのか、そのまま御子柴も桐生に背を向け風紀室へと歩みを進める。
生徒会室と風紀室へ戻って行った二人の生徒を思い、桐生は小さく息を吐いた。
「"生徒会長"と"風紀委員長"に何かあるのはもう柳原の伝統なんですかねぇ、…少なくとも君の息子は変な所も君に似ていそうですよ、祐一」
御子柴に声を掛けられた瞬間の、桐生だけが目にしたあの表情は、何と言ったら良いのか。
会議室から出て来る生徒会役員や綾部、夏希たちにお疲れさまでしたと言いながら、桐生はふと思う。
それにしても松村親子、長らく会っても喋ってもいないとは。
「僕が知る君たちは、仲睦まじかったはずなんですが」
その情報も既に古いということか。
確か最後に祐一本人ではなく、あのイカれた生徒会長親衛隊隊長から話を無理矢理聞かされたのは、…五年ほど前。
彼の妻が、亡くなった時から、プツリと連絡が途絶えた。
「…いざとなったら連絡を取ってみるか。本当は嫌ですけど」
彼らに関わると胃に穴が空く。
桐生は胃を擦りながら、自分のスマホのデータに残っていたかなと考える。
松村祐一の親衛隊隊長、霧島真尋の連絡先は。
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