【柳原学園】

□第六章
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そう喋っていると、遠くから「夏希先生ー!」と他クラスの担任の声が聞こえた。
その声に気付いた夏希はやべ、と言いながらもあまり焦っていない様子で俺たちの背中を押す。


「ほら、整列整列。団体行動乱さないようにな」
「夏希ちゃんからそんな先生らしい言葉が出るなんて…」
「この科学館での感想レポート、お前十枚出せよ」
「えっ、何それー。皆の十倍じゃーん」
「綾部君ご愁傷さま」
「自業自得じゃない」


ちゃんと並ぶから許してー、と綾部が急ぎ足で列に向かうのに後ろからついて行く。
俺様生徒会長はいつも余裕ぶってなきゃだから、急いでるとは思われないように…。
速さは変えず若干歩幅を大きくして歩く俺の横に来た志春が、小さな声で話す。


「松村」
「何だ」
「さっきの冗談じゃねェからな」
「さっきの?」


さっきのって、いつのだ?
歩きながら志春を見上げると、志春は前を向いたまま答える。


「馬の骨にお前の身体任せられねェってやつだ」
「あぁ…冗談じゃなくてセクハラだって?」
「セクハラされてェんなら、遠慮なくしてやるが?」


手をわきわきさせるなこのエロ保健医。
若干身体を引かせると何事もなかったように、ともかく、と志春は話を続ける。


「テメェは無理しがちだからなァ。…夏休みみてェなことになるなよ」
「!! …確かに修学旅行前に生徒会の仕事は山ほどあったが、あの時みたいに一人でやってねぇ。他の役員たちにも手伝わせた」
「上等。この修学旅行でも何かあれば遠慮なく来い。相手してやる」


夏休み、母さんの命日の近くになると体調を崩す俺は今年も見事に崩した。
それは皆のお蔭で丸く収まったんだけど、あの件では志春にも沢山迷惑を…心配をかけたから。
懇談合宿で夏希に言われた通り志春にも事情をある程度説明した時に、迷惑をかけたと言ったら心配したんだと返されたんだよな。
この件でも今の言葉でも、最近志春が良い人すぎて怖いんだけど。


「…お前、何か企んでるか?」
「ブチ犯すぞテメェ」
「ごっ、わっ、悪い」


ガチトーンで言われて思わずごめんなさいと謝るところだった。
志春には若干素がバレているけど、それはそれ。
俺様の体裁を簡単に崩すわけにはいかない。
志春はそんな俺を横目で見て、肩をすくめる。


「別に。俺は好きな奴には優しくなる人間だったってだけだろ」
「……、…え」
「…何だァ、その間は。テメェ、忘れたとか言いやがった日にはマジで犯す」
「わっ、忘れてねぇ! 覚えてる!!」


あれだよな!! 志春が俺に告白して来た時の話だよな!!
それを思い出すと同時に、あの時の状況まで鮮明に思い出してしまった。
好きだ、って、ベッドで、キスとか…されて。
目を志春からそっと逸らして、意味もなく前髪を触る。
何か今更照れてきてしまった。
志春がどんな顔で俺を見てるのか分からないけど、きっと上機嫌なんだろうなと分かる声色でクッと笑う。


「そうやって意識してりゃァ良いんだよ」
「…お前に頼りにくくなるんだが」
「馬ァ鹿、そん時は俺を男としてじゃなくて大人として見ろ。混同すんな」
「だいぶ理不尽だな」
「今更だろ?」


恋愛対象として見ろと言ったり、大人として頼れと言ったり。
お前が告白してきたから、コッチは意識せざるを得なくなってるのに。
…まぁ確かに、志春は柳原三大俺様のトップだから今更と言えば今更か。
ほらさっさと並べ、と自分で呼び止めたクセに急かすのも志春らしい。
列に行くと俺が並ぶ所がポッカリと空いていた。
整列は基本的に番号順だから、綾部や木原、坂口と俺はかなり離れる。
綾部なんて前から三番目だからな。



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