【柳原学園】

□第六章
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「さて、とりあえず一通り見て回ったし、最後は俊太だな」
「……大取りだけあって、人が多いな」


いつの間にかいなくなっていた黒瀬とスバルと別れて、桃矢と一緒に様々な所を回って。
最後に来たのは、俊太がプロデュースしたステージだった。
俊太が街でスカウトした、コウ、ミサ、ユキのスリーピースバンド。
バンドとかそういうのあまり聴いたことないけど、だからこそ楽しみだな。


「松村、黒田、こっち」
「……俊太の、親衛隊…?」
「島崎様が、二人を特等席に、と」


後ろの方で他の観客の邪魔にならないように見ようと思っていたら、そんな声がかかる。
俊太、そんな気遣いをす…いや、多分違うな。
『正確に評価し、宣伝してもらうためですから』っていう俊太の言葉が聞こえてきそう。
俺と桃矢は顔を見合わせて、その親衛隊が案内した、ステージが一望できる席に座った。


「本当に、特等席だな…」
「……理事長や来賓の方々が座りそうな場所だ」


ま、まぁ、見た感じ理事長たちは来てないみたいだし。
理事長たちは例年全ての出し物を見るために、一つの出し物をじっくり見るってことしないしな。
でも来た時のために、いつでも席を立てるようにはしておこう…。
流石に理事長たちに俺様発揮しても良いことないからね。
そんなことを考えていると、開幕のアナウンスが耳に届いた。
そして、その後は、未知の世界と言うか。
リズミカルで激しい音が弾けて、かと思えばバラード調だったり。


「……悠里?」
「す…、すごい、な。テンションがすげぇ上がる」
「……ふっ。そんなストレートな言葉を言わせるなんて、俊太が聞いたら喜ぶ」


思考が引っ張られて独り言のように素の言葉を口にしていた。
桃矢の言葉にハッとして、慌てて口を閉ざす。
いや、でも、これは凄い。
会場の熱気も相まって、完全にステージのあの三人が場を支配している。
俺はこういうのは素人だけど、街でスカウトって、逸材を引き当てたんじゃないのか…?
一旦幕引きかと思えば、アンコールの声に応えてもう一曲。
それが終ってもアンコールの声。


『皆さま、楽しんで頂けたでしょうか』


あれ、この声、俊太だ。
そのマイクを通じた俊太の声に、楽しかったー! アンコール!! と肯定的な声が響く。
ありがとうございます、とのお礼の後に言葉を続ける。



『こちらの三人、コウ、ミサ、ユキが今回歌った楽曲を含めたCD並びにデータを発売致します。こちらのモニターに映るURLからアクセスをお願い致します。プロデュース致しました島崎グループ、島崎俊太でした』


少々素っ気無い宣伝ではあったけど、あいつらしい。
そのURLがモニターに映った瞬間、観客の皆が各々スマホやタブレットを取り出してアクセスし始める。


「これだけの人数がアクセスしたら、サーバー落ちるんじゃないか…?」
「そんなミス、俺がすると思うなんて松村会長もまだまだですね」
「っ、俊太!」


呟きを零した俺の耳元で、先程までマイクを通じて聞こえていた声が届く。
思わず耳を押さえて振り返ると、俊太がいつもと変わらない表情で立っていた。


「……お疲れ、俊太。素晴らしいステージだった」
「ありがとうございます。ちなみにサーバーは過剰なまでに強化済みですのでご心配なく」
「抜け目ねぇな」
「当然でしょう、ここで鯖落ちなんて目も当てられない」


流石俊太…ちゃんとそこまで考えてのステージなら、満点超えてるよ。
すると主役の三人がこちらへと歩いて来た。


「あーっ、松村くん! 聴いてくれた? どうだった!?」
「素晴らしかったです」
「んー! そういうのじゃなくてぇ、もっとこう! ガンッと!」


ガンッ、と…?
ミサさんの言いたいことがよく分からず困惑していると、桃矢がそっと囁いて来た。


「……さっき言っていたことを、そのまま言えば良いんじゃないか?」


さっき? …あぁ、なるほど。


「テンションすげぇ上がった」
「それそれー! やったー! 褒められたよユキ!」
「やったな、ミサ」
「俺も仲間に入れてくれよ、ミサ、ユキ」


きゃっきゃっとミサさんに抱き付かれ、その頭を撫でるユキさん。
コウさんが苦笑してそう言うと、ミサさんは頬を膨らませる。


「コウは松村くんに運命感じちゃってたんだから、松村くんに褒めてもらえばいいじゃん!」
「ただ単に見覚えがあるような顔だっただけだって」
「まぁだが、今回のステージは大成功だったな。ありがとう、島崎君」
「ありがとね、俊くん! …あっ」
「こちらこそ。…もう好きなように呼んで下さい」


ミサさん、強い…!


「結果が出れば良いな」
「出ますよ。出します。その折には更なる宣伝お願いしますよ、松村会長」


島崎さーん、と遠くで呼ぶ声がし、俊太はでは、と軽く挨拶をしてその場を去った。


「松村くんに、宣伝してもらえるの?」
「結果が出て、将来性を見込めるなら」
「随分はっきり言うな?」
「こればかりは、ビジネスなので」


友情だの何だの、甘いことは言えない。
それに、同じ生徒会役員だから、友人だから、…向こうはそう思ってないかもしれないけど、そんなことを言った日には。
俊太からどんな毒舌が飛んでくるか。


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