【柳原学園】

□第六章
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それから暫く受付で挨拶をして、時々少し受付を離れて来賓の相手をしながら、ふと時計を見ると昼時になっていた。


「そろそろ休憩に入るか」
「……そうだな。昼食はどうする?」


昼食か…どうしようかな。
うーん、と悩みながら隣の桃矢を見て、ひらめく。


「そう言えばお前のクラス、出し物は多国籍料理だったよな」
「……あぁ。行くか?」
「智也たちと違ってお前は警備体制担当だが、お前のことだ、自分のクラスにも何かしら手は貸したんだろ」


俊太が担当するステージは後で見に行くとして、他の役員の出し物を見て桃矢の所には行かないっていうのもな。
せっかくの昼時だし、興味もある。
行くぞと言うと桃矢は大人しく付いて来た。
その表情がどこか嬉しそうなのは、俺の勘違いじゃないはず。
桃矢のクラスが激戦の中抽選で勝ち取った食堂に行くと、昼時ということもあってほとんどの席が埋まっていた。


「大盛況だな」
「……そのようだ。少し待つか?」
「あぁ」


足を踏み入れると、俺たちに気付いた生徒たちが急いで食べ終わろうとしていて、それを止める。
こうして気を遣われてしまうからなぁ…普段の食堂なら生徒会専用の席があるんだけど。
外部からの来賓者もいる文化祭でその席を設置するわけにもいかず。
あぁ…俺たちに気付く生徒が増えて来た。
やっぱり他の所に行った方が良いかな。
そんなことを考えていると、生徒が一人寄って来た。


「黒田、松村。来てくれたのか」
「……寺野。お疲れ」
「おう。お前もな」


桃矢のクラスの奴か。
寺野は申し訳なさそうな表情を浮かべる。


「悪い、予想以上に大盛況で」
「……もう少し席や案内の仕方に工夫が必要だったな」
「な。まぁ、それは来年に活かすとして。相席なら案内出来るけど、どう?」


相席でも構いはしないんだけど、それなら俺たちより先に待ってた人たちを案内した方が良いんじゃないか?
そう思って、いや、と口にしたんだけど。


「お怒りはごもっとも。生徒会長様を相席に案内するのはめちゃくちゃ申し訳ない」
「怒ってねぇよ」
「でもここで松村たちをこれ以上待たせる、又は帰らせることになったら」


寺野はバッと手を広げて食堂にいる皆を示す。


「ここにいる松村や黒田の親衛隊、他生徒、そして俺たちのクラスメイトが罪悪感で死ぬ」
「…死ぬ?」
「死ぬ」


深く頷く寺野に、そんな大げさな、と言おうとしたけどその表情は真剣そのものだった。
死ぬ、という言葉を真に受けるわけじゃないけど、罪悪感を抱かせるのは本意じゃないな…。
桃矢に視線を向けると、桃矢は頷いた。
それを受けて俺は寺野に分かったと告げる。


「相席で良い。案内しろ」
「おっけー。二名様ごあんなーい」


寺野に連れられて行った席は奥の方で、四人席に二人の男が既に座っていた。
寺野がその二人に頭を下げる。


「相席を了承してくださいまして、ありがとうございます」
「いえいえ。こっちは食事を戴いている立場なので。お気になさらず」
「……」
「何黙ってるんです。そういうとこですよ」
「うるせぇ。嫌なら断る。それ以上の謝罪も礼もいらねぇ」


口調はぶっきらぼうだけど、本気で嫌がっているわけではないのが伝わってくる。
寺野にもう案内は良いとジェスチャーで伝えると、寺野は手をひょいと上げてゴメンとホール業務に戻って行った。
この二人は気にしていないみたいだけど、相席をしてもらったことには変わりないし。
お礼くらいは言っておかないと。
俺と桃矢は席に座り、二人を改めて真正面から見て。


「すみません、ありがとうございます」
「席埋まってますもんね。どうぞどうぞ………、…あれ?」
「だから謝罪も礼も……………あ?」
「…は?」
「……悠里?」


その顔に、お互い絶句する。
そしてぶっきらぼうだった口調の男が、がたんっ、と席を立ちわなわなと俺を指差した。


「──松、村…悠里…ッ!!」
「お前ら…!!」
「指差すなんて行儀が悪いですよ。ここはいつもの溜り場じゃないんですから、新庄さん」
「何呑気なこと言ってんだ黒瀬!! こいつ、松村悠里だぞ…!?」
「そうですね。久し振り、紅龍兄」


怒りか驚きか分からないけど顔を真っ赤にしている男と。
やほー、と呑気に手を振る男。


「スバルと、黒瀬…」
「覚えててくれたんだ。黒瀬祥平、光栄の極み」
「す、昴って…き、気安く呼ぶな!」
「じゃあお前も松村悠里って気安く呼ぶな」
「な…っ」


おっと、つい。
夏休み、街で紅龍として総長をしているレイの評判を落とそうと画策していた新庄昴。
レイたちのアジト、喫茶店星彩に乗り込んできて。
俺は新庄にコップの水を掛けられたり、皆を馬鹿にされたことに腹が立った俺は反撃にキスをお見舞いしてやったりと。
それはもうごちゃごちゃやったんだけど。
そういう経緯もあって、スバルには無意識に塩対応になると言うか、俺様演技に近い対応になってしまう。
黒瀬はスバルが面白いから付いているだけらしいし、敵対心を感じないから掴みにくい奴ではある。


「ショック受けてないで座って下さい。目立つでしょ」
「っ、ショックとか受けてねぇ!」
「はいはい」


ぐぬぬと唸りながらスバルは大人しく席に座る。
何か相変わらずだな、お前ら。


「いやー、でもまさか紅龍兄と会うなんて」
「それはこっちの台詞だ。何でいる? っつーか、その白いブレザー…学生服か?」
「実は新庄さん、とある私立学校の理事長の息子で。学校代表として新庄さん、その付き添いとして俺も来させてもらったんだ」
「私立学校理事長の、息子……」


星朧の皆から、新庄はボンボンだの金で舎弟を引き連れてただの聞いてたけど。
その白のブレザー、材質は一級品だし、柳原までは行かないにしても相当良い学校なんじゃないか?
それにしても。


「お前ら、ちゃんと学生やってたんだな…」
「どういう意味だ? あ?」
「街統一しようとしたりレイ潰そうと画策したり、喫茶店に乗り込んで来たり俺に水ぶっかけたりする奴が…学生…しかも三年…」
「ただのボンクラだったんだけど、急に真面目になって、学校と新庄の名前背負ってここに来させてもらえるくらいにはなったんだよ」
「へぇ。何があったんだ?」
「八月。夏休みのある時からね。良い出会いでもあったのかな? 対等になりたい誰かと…ぶっ」
「くーろーせー? お前なに敵の兄貴にペラペラ喋ってんだよ!」
「しゅひましぇーん」


顔を掴まれても相変わらずの無表情。
すみませんと言いながら全然反省して無さそうなところも変わってない。


「……悠里」
「あっ、と…コイツらは新庄昴と黒瀬祥平。レイの関係者で、さっきのアディたちみたいなもんだ」
「どうも、黒瀬です。紅龍兄こと悠里とは深い深いお付き合いをさせて頂いてます」
「はぁ!? お前、いつの間に…!!」
「冗談です」
「ぐ…っ、うっ…!!」


面白いから一緒にいる、と言っていた黒瀬の言葉が本気だと分かる光景だよな…。
スバル、ちょっとチョロ過ぎないか?



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