【柳原学園】

□第六章
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「…よし、終わったわよ、まっつん」
「…任せるとは言ったが、男にリップ…?」
「メンズリップって言うの。軽くでもメイクしたんだから、リップしないと逆に浮くのよ」


まぁ、俺にはヘアメイクの世界ってよく分からないから花梨に全部任せたんだけど。
俺が立ち上がると、花梨はスタンドミラーをさっと俺の前に置いた。
いつもとは違う髪型、綾部手作りだと言う執事服、花梨に任せたメイク。


「いつものナチュラルなまっつんも素敵だけれど、今のまっつんもドキドキしちゃうわね」
「…花梨」
「なぁに?」
「お前、凄いな」


素直にポロッと言葉を零すと、花梨は。
にやり、と笑って。


「今頃、気付いたの?」
「遅らばせながらな」
「貴方の親衛隊隊長だもの、これくらい当然よ」


その言葉に俺もニッと口の端を上げる。
花梨はそんな俺の背中をポンと叩いた。


「さて、今日は文化祭最終日、一般公開の日。執事服で皆を骨抜きにしちゃいましょ」
「あぁ。行ってくる」


行ってらっしゃい、と花梨に手を振られて俺は更衣室を出た。
文化祭三日目、最終日。
一般公開の幕開けです。



ざわざわと、いつも以上に注目を浴びながら、俺は受付へと向かった。
そこには既に桃矢もいて。


「待たせたな」
「……いや。…似合っているな」
「綾部も花梨も、良い仕事をした」


俺のクラスの出し物、執事喫茶のスタッフとして今日少しだけ顔を出す約束になってる。
だから宣伝も兼ねて朝から花梨に頼んで、執事服に着替えたんだけど。
それはもう、完璧な仕上がり。
と言うか、この執事服、同級生たちともまた違う気がするんだけど。
もしかして綾部、俺専用に執事服のデザインしたんじゃないだろうな…?


「ひえぇ…神……」
「神が降臨なさった……」


受付の生徒二人が涙を流しながら、俺に向かって拝んでいる。
そ、そこまで…?
でも、綾部や花梨の仕事ぶりが褒められているようで、悪い気はしない。
俺は口元に笑みを作って、受付の二人に顔を近づけた。


「受付を頑張ってるご褒美だ。近くでじっくりと、ご堪能下さいませ?」
「潔い死」
「この世に感謝」


この二人、いちいち反応がスケールデカいな。
何か思った反応と違うけど、外してはない…よな?
執事ならこんな感じが良いんじゃない? と綾部やレイ、森宮から情報提供を受けた。
よく分からないけど、どこかの界隈では需要があるらしい。


「柳原OB二人でーす」
「てか執事服の…えっ、松村!?」
「うわ、俺様何様松村様が執事!?」


受付に立っている執事服の男が俺だと分かると、柳原のOBという男二人は目を見開いた。
そんな二人に俺は笑みを浮かべて。


「2-A執事喫茶、是非おいで下さい」
「えっ、松村も執事? やべ、面白そう」
「てか柳原で執事は斬新。お前らされる側だろって。絶対行くわ」


頑張れよー、と手を振って二人は中へ入って行く。
やっぱ柳原で執事喫茶は斬新だよな。
面白そう、っていう反応なら悪くない。
次々と、柳原関係者や事前にチケットを貰っている関係者外の人たちが受付を通って行く。
その度に俺は物珍しそうな顔で見られ、時には頬を染められ。
2-Aの宣伝をしまくった。


「ダイレクトに宣伝してて反則技な気がするけどな」
「……受付で宣伝をしてはいけないという決まりはない。実際他にも何人かいるだろう」
「まぁ、何か言われても俺は生徒会長だし、どうにでもなるけどな」


生徒会長権限を振りかざしているわけではないけれど。
智也や啓介、生徒会役員は優先的に出店場所を決められるように、俺の宣伝も一つの権利だと主張したい。


「…悠里さん?」
「ん? ……お前ら、は…」


受付に並んでいた人影に名前を呼ばれ、視線を向けるとそこには二人の青年が。
何か見たことあるような……、って、まさか。


「アカとアオ…!?」
「はい、お久し振りです、悠里さん」
「俺たちのこと忘れたんすか? ひどいっす!!」
「いやだって、お前ら、髪色…」


アカとアオ。
俺の弟、レイが街で率いる【星朧】というチームの古株である二人。
その正体は、蒼井時雨、薬剤の研究をしている蒼井家長男。
そして緋咲焔、蒼井家の護衛を代々仰せつかっている緋咲家の長男。
その名の通り、アオは静かな青色、アカは燃えるような赤色の髪色をしてたはず、なんだけど。
今は真っ黒に染まっていた。


「一応、今日は"蒼井"と"緋咲"、で来てますから」
「入学前に悪い印象与えたくないっす」
「お前ら…真面目で可愛いなー」


よしよしと頭を撫でると、二人は慌てたように、それでいて少し照れくさそうに笑う。
柳原には不良集団みたいな委員会があってな。
風紀っていうんだけど。
何よりツートップが髪染めてるからな、髪色なんかで判断するような学園ではないんだけど。
中学生らしい可愛さ、初々しい。


「てゆーか、悠里さんこそ何なんすか、その服装。執事?」
「あぁ、俺のクラス、2-Aで執事喫茶やってるんだ。良かったら寄ってみてくれ」
「執事…喫茶…?」
「心配するなアオ、柳原でも色物扱いだ」


執事喫茶というものが普通であると思われると、だいぶ柳原のイメージに関わる。
それを聞いて少し安心したような表情を浮かべるアオと。


「ヒュー! そんな色物が許される柳原って、結構自由度高いんじゃないすか?!」
「自由度が高いことと、枠組みを外れることは別の意味だからな、アカ」
「またまた、アオだって街では同じ穴の狢、少しは安心するっしょ?」
「…否定は、しない」


街で不良やってる二人だしなー、自由度高い方がそりゃ良いよな。
と言うか、そもそも。


「レイが生活送れてるんだから、大丈夫だと思う」
「! そー言えば、こうりゅ…えっと、麗斗さん! いたっすね!」
「自分たちのトップをそう言えばって…麗斗さんはどこに?」
「あー……レイ、は……」


レイは、今日も女装しているんだろうか…。
そもそも今日二人が来ることを知ってるのか…?
ちょっとレイ、もとい紅龍の沽券に関わるかもしれないから…。


「俺の口からは言えないから、自分で捜してほしい。むしろ捜さない方が良いかもしれない」
「えっ、どういう意味ですか…?」
「もしかして、麗斗さんも色物!? ヒュー! 楽しくなってきたー!」


アカの好奇心に火を灯してしまった。
ごめん、そこら辺は上手くやってくれ、レイ…。
俺は入口を示す。


「もし案内が必要なら、俺から口添えして……」


案内役を付けても、という台詞を前に、ガシッと、手を握られた。
その手を思わず素で見詰めていると、感極まった声で。


「結婚、して下さい…!!」
「は?」


突然のプロポーズに俺は顔を上げる。
アカとアオは俺たちは違います、と首を振った。
じゃあ誰だとそちらに視線を向けると、目に入ったのはキラキラと輝く、銀色で。


「あ、アディ…?」


月岡アドルフ。
【星朧】副総長、夏休み告白してきた高貴な狼の名を冠する銀狼が。
顔を真っ赤にして、俺の手を握っていた。




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