【柳原学園】

□第六章
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柳原学園高等部文化祭。
『お金持ちの本領発揮の場』と名高いこの行事は三日間に渡り行われる。
一日目は学園の生徒、教師のみ、二日目は生徒の家族や卒業生、学園関係者が加わり、三日目はこれらに更に加え事前申請・学園承認のもとの一般公開である。

柳原学園文化祭にはクラスの出し物以外に、個人の出し物が存在する。
個人、すなわち『家』を背負った出し物。
例えば、食器メーカー御曹司の生徒会副会長、工藤智也は自ら目利きした食器の展示を。
お菓子メーカー御曹司の会計、里中啓介は自らが考案し作り出したお菓子の展示・販売を。
人材発掘を主にしている島崎家御曹司の庶務、島崎俊太はタレント等にステージ部門への出演依頼、写真集等を販売、人材の売り出し。
化粧品メーカー御曹司の生徒会長親衛隊隊長、早乙女花梨は化粧品の展示・販売。
それぞれプレゼンテーション能力、コネ、経済能力、あらゆる自身の能力を試す場となる。
他にも、警備会社御曹司の生徒会書記、黒田桃矢は風紀委員と協力しつつ警備体制を整えるという、出し物とは異なるが自分の家を背負う役目を果たすこともある。

もちろん個人の出し物は有志であり、クラスの出し物に専念する生徒もいる。
公序良俗に反しなければかなり自由度の高い、そしてレベルの高い文化祭となる。
この文化祭によって、それぞれの会社の行く末をある程度把握しようとする生徒の親、つまりあらゆる会社の社長たちも少なくはない。

この大きな行事を運営するのは、生徒会、風紀委員を始め、各クラスから選出された二名の文化祭運営委員である。
文化祭運営委員は各クラスの出し物の運営、生徒会との連絡係を担う。


「松村、各クラスの文化祭運営委員決まったぞ」


生徒会担当教員、柿崎夏希が各クラスの担任から受け取った文化祭運営委員の書類を生徒会室へと持って来た。
悠里はそれを受け取り、そこに連ねられている名前を確認していく。
それを覗き込む生徒会役員。
1-Bを見た啓介が、あ、という声を出した。


「麗ちゃんと、あの新入生歓迎会で凄いお願いしてきた森宮瑞希だ〜」
「レイ、運営委員になったのか…」
「風紀委員って運営委員になって良かったんですっけ? 彼、確か夏休み前後で風紀委員になってましたよね」
「禁止はされていないはずですよ」


生徒会程ではないにしても、風紀も文化祭期間はかなり多忙となる。
しかし風紀委員と運営委員を両立させられる能力があるのなら構わない、というのが暗黙の了解としてある。
そもそも運営委員と風紀を兼任していれば風紀としては手間が省けるので、むしろ推奨している所もあるくらいだ。
それにしても麗斗と瑞希、腐男子コンビとはどんな出し物になるのか若干恐怖を感じる。


「……1-Cは、早乙女梅太が入っているな」
「花梨ちゃん先輩の弟くんか〜」
「彼は花梨先輩と兄弟として化粧品のプレゼンテーションに専念すると思いましたが…」
「早乙女兄弟曰く、花梨の最後の腕試しとして梅太のサポートなしにやるらしい」
「あの人ももう卒業ですもんね」


卒業後の詳しい進路は聞いていないが、大学へ進学して本格的に社長後継者として打ち込むのだろう。
最後の腕試し、どんな出し物になるのか楽しみである。
1-Eには竹中深月と記されている。
確かこの生徒も風紀委員ではなかったか。


「2-Aは…っごほっ!!」
「悠ちゃんのクラスだよね〜?」
「……坂口亮、木原真紀」
「何でこの二人が…」


学級委員の坂口ならともかく、木原まで。
担任である夏希に目線をやると、夏希は温かい目のような、死んだ目のような表情を浮かべた。


「委員決める時、お前ら生徒会に近付けるかもってんで立候補しようとした生徒はいたんだよ」
「なら何で…」
「でも俺が、委員やりたい奴はいるか? と、問いかけた瞬間、むしろ食い気味に、坂口が手を挙げたんだ」


その言葉だけで、あ…と誰ともなく察した表情になる。
坂口は持ち前の情報力から魔王として名高く、恐れられている。
そんな坂口と競ってまで運営委員になろうとは思わない。
そしてそんな坂口と一緒に、運営委員をやろうとも思わない。
一緒にいるだけで弱味を握られる気分になるのだ、それも仕方ないことかもしれない。


「そこで俺は、他にはいないか? と尋ねた。当然、立候補する者はいなかった」
「教師が『当然』とか言いますか」
「シーン、とする空気の中、坂口がいつもの爽やかな笑みを浮かべて言ったわけだ。『木原君を推薦します』と」


その言葉に一拍置いて、はぁっ?! という木原の少し高い声が響いたらしい。
嫌だ何でアンタなんかと、というストレートに拒否する木原に、坂口はその口の上手さをフル活用して、とうとう木原を納得させてしまった。


「もはや第三者として、木原を納得までさせた坂口の恐ろしさを目の当たりにして、俺らは何も言えなかった」
「…亮は、俺のことをダシにしてたか」
「まぁ、そりゃな。木原はお前の副隊長だから」


もう吹っ切れてやる気満々だったけどな、という言葉を聞きながら、悠里は額を押さえる。
木原はどこでああも気に入られてしまったんだ、坂口に。
ご愁傷さまですね、という俊太の呟きに頷かざるを得ない。


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