【柳原学園】

□第五章
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少し気持ちを落ち着けてから下に下りて八重が準備してくれた部屋に入る。
すると紅茶やお菓子が置かれたテーブルを囲んで皆が既に席に着いていた。
見れば皆それぞれ何かしらを口にしている。


「おぅ、松村。先に頂いてるぞ」
「あぁ、構わねぇよ」


紅茶を飲む夏希と智也の間に俺は座った。
向かいの席に座ってケーキを食べている啓介は満面の笑みを浮かべる。


「悠ちゃんすっごく美味しいよ〜」
「そりゃ良かった」


本当に癒されるなぁ、なんて思いながらそう返すと、啓介だけではなく他の皆も目を瞬かせた。
あれ、何か変なこと言ったか?


「当然だ、くらい言うかと…」
「しー、だよ俊ちゃん」


啓介の隣に座る俊太が何かをボソリと呟いて、啓介が人差し指を口元に当てる。
何だ仲良しか。
席順は長方形のテーブルの二辺にそれぞれ四人ずつ。
智也、俺、夏希、桃矢。
俊太、啓介、綾部、御子柴。
ちなみに八重は部屋の隅に立っていつでも要望に応えられるようにしている。
座って良いって言ったんだけど、皆がいるからか首を振られた。
プロ意識が凄いなって思う。


「お前ら夏休み入ってから今日まで、何してたんだ?」
「僕はね〜、お菓子の新商品考えてたよ〜」
「へぇ、考え付いたのか?」
「ん〜、まだちょっと足りない感じかな〜」


お菓子関連の会社を経営している里中家の一員として、啓介もしっかりと携わっているらしい。
見た目が可愛いから年下みたいな印象だけど、しっかりと高校二年生なんだよな。


「私は食器の目利き向上を」
「目利き?」
「新しいデザインも既存の物を熟知しなければ出来ませんから」


確かに、一理ある。
この食器も素晴らしいですよ、とティーカップを示して微笑まれた。
ほ、褒められてしまった…何か照れる。


「……俺は、うちの者の相手をしていた」
「警備の人たちか?」
「……あぁ。あいつらがどこまでやれるのか見てやった」
「え!? 書記クン一人で黒田グループの警備員相手にしたの?」
「……そうだが」
「うっわー、あの優秀な警備員相手とか…風紀入らない?」


綾部の誘いに静かに首を振る桃矢。
何勝手にうちの役員引き抜こうとしてるんだお前は。
絶対やんないし。


「何で松村会長に言う必要があるんですかね」
「相変わらず口が減らねぇな、お前」
「俊ちゃん、懇談懇談〜」
「…俺は現場を見て回っただけですよ」
「現場…例えば?」
「モデルの撮影とかドラマの撮影とか。うちが発掘した人材がどれ程やれているか確認しました」


へぇ…流石島崎グループだ。
発掘してからその先まで世話するなんて。
だからこれほどまでに発展したんだろうな。
っていうか、そんな嫌々話さなくても…もうちょっと歩み寄ってほしいなぁ。


「俺はー、服のデザイン提案したりしてましたー」
「お前の家は服関係だったのか」
「そうだよー。俺のデザインした服で一山当てるのが夢ー」
「綾部がデザインした服か…いつか着てみてぇな」
「…えぇ!? そっ、それマジで言ってる!?」
「? あぁ、ダサくなかったらの話だが」
「えっやっ、そ、そっかー。じゃあさ、今度試作品だけど贈らせてもらうよー」


え、本当か。
綾部の家の話はあまりしたことなくて、気になっただけなんだけど…俊太とは真反対の歩み寄りっぷり。
綾部のことだから、多分センス良いの創ると期待。


「……」
「……」
「って、竜二。何黙ってんのー。夏休みの成果言っちゃいなー」
「別に…俺の家は兄貴が正当後継者だから、俺自身は大したことしてねぇよ」
「リュウっち、お兄さんいたんだ〜」


あぁ、そう言えば俺がレイと喧嘩した時言ってたな。
『いつも何か企んでそうな兄貴と、クッソ生意気な弟』…だったっけ。
でもそうか、御子柴の所はお兄さんが継ぐことがもう決まっているのか。


「啓介には兄弟いないのか?」
「僕は一人っ子〜」
「私もです」
「智也もか。桃矢は?」
「……姉が、一人。だが姉は既に嫁いだから継承権は俺に移った」
「姉? 意外だな…弟か妹がいそうな感じしてたが。俊太は?」
「妹が一人います」


妹…毒舌な兄を持つ妹さん…。
大丈夫なんだろうか。


「何年なんだ?」
「小学四年生ですけど何か」
「結構歳離れてんねー。可愛いんだろうなー」
「妹に手ぇ出したら殺します」
「そこまで節操なしじゃないよ俺!!」


あ、心配なかった、若干というより結構シスコン気味だった。
女の子なだけあって、心配もあるんだろうな。
俺はレイに近付く誰かが居ても、微笑ましく思うくらいだったし。


「そう言う綾部副委員長はどうなんですか」
「えー、俺ー? ふふふー、秘密かなー」
「それズルくないですか」
「男は多少ミステリアスな方が良いんだよー」


へらへらと笑って質問を躱す綾部に、内心首を傾げる。
綾部だったら何となく、嬉々として語りそうな気がしたんだけど…。
すると御子柴がチッ、と小さく舌打ちした。


「夏希は何やってたんだよ」
「俺はお前らの夏休み明けのテスト作ってたわ」
「うへ〜、もうテストばっかでヤダ〜」
「……学生の本分だ、仕方がない」


べー、と舌を出して顔を顰める啓介に、桃矢は紅茶を飲みながらそう言った。
御子柴、何か絶妙なタイミングでの話の振り方だったな…。
夏希も特に何も言わずに答えてるし。
…あまり探らない方が良いか、俺も人のこと言えないしさ。
するとその流れで、御子柴は俺に目を移した。


「…で、テメェはどうなんだよ」
「え…」
「俺らの話ばっか聞いてねぇで、テメェも自分の話しろ」
「ちょっ、竜二…」
「…あぁ、そうだな。そのつもりだった。──聞いて、くれるか」


俺が静かに言うと、誰もが手を止めて俺に視線を向ける。
真剣な瞳、何を話そうとしているのか察しているようで。
御子柴も、俺が話す機会を窺っているのに気付いて切り出してくれたんだろう、ありがたい。
八重にそこに居るように視線をやると、優しい笑みを浮かべて頷いた。
どうか俺とレイと母さんの話を、皆が受け入れてくれますように。



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