【柳原学園】

□第五章
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「こっんにちは〜! 悠ちゃん来たよ〜」
「分かってるっつの、啓介」


俺は変わらず元気な啓介に、苦笑を浮かべてそう返した。
柳原学園、生徒会風紀懇談合宿当日。
生徒会役員と風紀トップ二人、そして引率教師が俺の家を訪れた。
久し振りに見るけど、あまり皆変わってないな。
ちょっと焼けた…いや、そうでもないか、流石お坊ちゃんたちだ。


「ようこそいらっしゃいました。私は松村家に仕えております、笠松 八重と申します」
「私は引率教員の柿崎夏希と申します。この度は合宿所の提供、感謝致します」
「うわー、夏希ちゃんが真面目な言葉遣いとか違和感バリバリー」
「うっせぇぞ、綾部。…あ、いや、すみません」


綾部の茶化しに素に戻った夏希が、笑い皺を刻んだ八重に頭を掻きながら謝る。
無理して堅い言葉遣わなくても良いのに。
でも大人としての礼儀でもあるしな。


「堅苦しいのナシにしようぜ。お前らのことは簡単に教えてるから、今更だ」
「え、マジか。ちなみに俺のことは何て?」
「いろいろ抜けまくってる教師らしくない教師」
「的確なだけに言い返せねーわ」


自覚あるのかよ。
俺と夏希がそんな会話をしていると、智也が王子スマイルを浮かべて八重に近付く。


「初めまして、笠松さん。私は副会長の工藤智也と申します」
「僕は会計の里中啓介だよ〜。今日からよろしくお願いします!」
「……書記の黒田、桃矢。よろしくお願いします」
「俺は庶務の島崎俊太です。お世話になります」
「俺は風紀委員長の御子柴竜二。よろしく頼みます」
「そして喧嘩っ早いこの竜二を見張る俺が、副委員長の綾部和樹でーす。よろしくお願いしまーす…あいだっ!!」


流れるような挨拶の最後に、綾部は御子柴に頭を叩かれた。
ほんとにこの二人は漫才でもしてるのかっていうくらい仲良いな。

ちなみに八重にはそれぞれこう言ってある。
智也は物腰の柔らかい王子。
啓介はお菓子好きな俺の癒し。
桃矢は芯のある侍然とした兄貴。
俊太は時々デレる毒舌。
御子柴は常識のある不良。
綾部は御子柴を茶化すのが趣味なチャラ男。

…まぁ、もっと思ってることはあるよ?
でもほら…祖母のような第二の母のような八重に言うのは照れるじゃんか。
俺だってまだ高校二年生だから、多感なお年頃だから。
八重は俺の事情をそれとなく察しているから、俺様演技をしていてもそれに合わせてくれている。
本当にありがたいよ。


「八重、俺がコイツらの部屋案内するから、テーブルの準備頼めるか?」
「かしこまりました」


ティーセットとか口にするものとかの準備を頼むと、八重は頭を下げてこの場を去った。
俺は皆の方を見て上を指差す。


「とりあえず客室案内するぞ。二階にあるから、ついて来い」
「僕悠ちゃんと同じ部屋が良いな〜」
「無理に決まってるだろうが」
「じゃあ、俺と一緒に寝るー? 会計クン」
「えへへ〜、何言ってるのか分かんないな〜」
「結構辛辣だねー、会計クンは」


あはははー、という笑い声をバックに俺は二階へと上がる。
この二人も何気に時々気が合ってるっぽいんだよなぁ…仲間に入りたい。


「一番左端から、夏希、啓介、桃矢、御子柴、俺、綾部、智也、俊太だ」
「あれ、松村も客室なのか?」
「俺の部屋は別にあるが、合宿期間中だけ俺も客室入る」
「何で僕、悠ちゃんと部屋遠いの〜?」
「順番ツールで適当に決めた。文句あんならシステムに言え」


ちょっとコンピューターシステムに頼ってしまった。
だっていろいろ考えちゃってさ。
俺としては生徒会役員に囲まれた方が慣れてるから楽なんだけど、それじゃ懇談の意味ないし。
かと言って御子柴と綾部をどこに配置するかによっては俊太とか俊太とか俊太とかが文句言いそうだったし。
でもコンピューターシステムにしては良い結果だと思うんだよね。
まぁ、何故俺が風紀に囲まれる事態になってしまったのかは置いておいて。


「それぞれ荷物置いたら下のさっき八重が入って行った部屋に集合な」
「分かりました」
「りょうかーい」


智也、綾部に続いて皆が頷き、それぞれ部屋に入って行った。
客室は八重と俺と、森宮と何かのイベントとやらに行って今は不在のレイとで整えた。
ここは松村家の別宅だからあまりお客さんは来たことないんだけど、部屋はしっかりと八重が管理してたから何の問題もなかった。
俺も自分の部屋となった客室に足を踏み入れて、ベッドに座る。


「…大丈夫、あいつらのことは信用しても、大丈夫」


俺は静かにそう繰り返す。
思い起こされるのは、皆と最後にまともに顔を合わせたあの時。
精神的な熱でダウンした俺とレイが喧嘩した時だ。
あのままちゃんとした説明もせずに、母さんのお墓参りのためにこっちに来てしまったから。


「全部は話せないけど」


支えてくれた皆には、俺の口から言いたいんだ。
例え少し演技が崩れてしまったとしても。
あいつらなら、受け入れてくれるような気がするから。



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