【柳原学園】

□第四章
29ページ/56ページ





「話脱線し過ぎた、風紀の話に戻ろう」
「レイが脱線させたんだろー」
「何その拗ねた顔可愛すぎる」
「ん? 何て?」
「風紀の話だったよね」


速すぎて聞き取れなかったんだけど、レイは何事もなかったように話を戻した。


「まぁ、実は最初から風紀には興味あったんだよ」
「え、そうだったのか」
「暴れられるってところに魅力を感じて」
「…レイも不良さんだったな、そう言えば」


柳原学園に転校してきた経緯を話してもらった内容を鑑みれば、レイが不良だったことは分かってた。
だって街の不良殲滅とか一般人に出来るようなことじゃないし、どこか御子柴たちと同じよな空気を感じてたし…。
でも最初は兄として複雑だったけど、レイはレイだからもう気にしてない。
レイは少し目を伏せる。


「でも大きな要因は…風紀の手伝いをしたから」
「あぁ、綾部が『お宅の弟クンお借りしてまーす』って報告してきたな」
「俺、ユウの部屋から出た後いろいろあってさ。和樹先輩に助けてもらったんだ」


助けてもらった?
そこに不穏な空気を感じたけれどレイは話す気はないようで。
…っつーか、レイまで綾部のこと名前で呼んでるんだけど、どういうことだ。
何でお互い名前呼び合うことになってるんだよ、え、どうすれば良いの俺。
先輩後輩? ただの先輩後輩だよな?


「そのお礼に風紀の手伝いを頼まれた。それからユウの体調が安定するまでの数日間、風紀として動いて…俺に合ってるなって思ったんだ」
「合ってる?」
「そう。確かに俺は街で不良って立場にいるけど、活動内容としては前も言った通り正義活動みたいなものだったんだよ」
「正義活動ってことは、風紀を正してるってことか」
「勿論そこには暴力を伴うこともあるから、完全に正当化するつもりはない、言い訳もしない。だけど頭使って戦略立てて、悪巧み潰して適切な処置をする──そこで培われる経験は、ユウの役に立てると感じた」


俺の、役に…?
確かに風紀が正しいと生徒会としても助かる。
だけどレイが言っているのは、それだけじゃないような気がする。


「具体的には?」
「ユウが松村グループを担う立場になった時、俺はユウの補佐として──共に、居られる」
「──っ!!」


『共に』…それは、俺とレイが新たに目指すものになったこと。
あぁ、そうか──レイも既に、覚悟を決めているのか。
そして信じているんだ。
同じように後継者候補として名を連ねている自分ではなく、俺が親父の後を継ぐことになるであろうことを。
そしてそうなった時、俺の隣に自分の居場所を作ることを。
俺は目を閉じる。
俺は後継者候補として本物の後継者になるために、柳原学園に入って生徒会長になった。
そしてレイも、俺を支えるために今存在している。
俺は目を開けて、レイを見詰める。


「そこまで考えているなら、風紀に入ったことに意義を唱える理由はない」
「ん。ユウに納得してもらえて良かったよ」
「…あーぁ、なんだかなぁー」
「え、どうしたの。何か不満?」


ごんっ、と額を机にぶつけて首を横に動かし机の上に頬をつける。
不満なんてこれっぽっちもないさ。
むしろ弟の成長が見れて嬉しいくらいだ。
でもさ、やっぱりさ。


「…レイが変わっていくから、ちょっと寂しい」
「何言ってるの。俺はユウを追いかけるのに必死なだけ」
「んー…」
「それにユウは俺が変わっていくって言うけど…俺がユウを好きなことは絶対に変わらないから」


ちゅっ、とレイは俺の手を取ってキスをしてきた。
いやいや、変わらないって言うけど、明らかに昔と愛情表現変わっちゃってるからね。
小学生の頃とかは抱きついて来るだけだったのに、いつの間にこんな女性をトキめかせるような振る舞いを…。
でもそのおかげで寂しさが払拭されたのは間違いないわけで。
俺は机に頬を付けたまま目線だけを上げてレイを見た。
レイは俺を安心させるように口元に笑みを浮かべている。
それを見てから、俺は目線を俺の手を握っているレイの手に移した。
レイの手は、もう俺より大きくなっていて。
俺は顔を机から上げて、そっとレイのその手に唇を寄せた。


「…俺も好き。もう、レイがいなきゃ生きてけないかも」


へらっ、と照れ笑いを浮かべる。
するとレイはピシリと固まった後──ゴンッッと机に突っ伏した。
さっきの俺と同じ状況だけど、その威力が全然違う。
机を頭で叩き割るのかってくらいの音だったもん。


「れ、麗斗く〜ん?」
「…もうほんっと…タチ悪い…」


そうボソリと呟いたレイの耳が真っ赤なのに、弟の額の心配をしていた俺は全く気付かなった。




.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ