【柳原学園】

□第四章
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「俺は明日から一週間程部屋に籠る」


終業式が終わって沢山の遊びの誘いを断り、生徒会長の仕事に精を出して一段落したのが、明日から八月という今日。
生徒会室で宣言した俺の突然の言葉に、同じく仕事を早く終わらせ夏休みに突入したい生徒会役員たちが目を瞬かせた。


「えっ、と…どういう意味ですか?」
「そのままの意味だ。八月一日から一週間、寮の部屋に籠る。その間誰とも接触するつもりねぇから、言いたいことあるなら今の内に言え」
「えぇ〜!? どうして〜? 僕、悠ちゃんと遊ぶために仕事頑張ったのに〜」


うるうる、と目に涙を溜める啓介に内心嬉しさと罪悪感が込み上げるが、俺は目を逸らすことで誤魔化す。
相変わらず可愛いなぁ、もう…!


「どうだって良いだろ。第一、遊ぶとか今初めて聞いたぞ」
「えへっ」
「籠るって…そうは言っても松村会長、食堂には顔出しますよね? 言いたいことあるならその時に言えば…」
「いや、言葉通り、部屋に籠る。部屋から一歩も出ねぇ」


智也たちが顔を見合わせてる。
うん、イキナリ引き籠り宣言されたら、そうなるのは分かる。
俺様生徒会長と引き籠りって、一番イコールで繋いじゃいけない単語だと思うしな。
…でも、そうしないと駄目なんだ。


「……何かあったのか?」
「家の事情だ」
「松村家の、ですか」


家のことを持ち出すと、皆は途端に口をつぐんだ。
ごめん、多分お前らが思ってるような会社の利益云々には全く関係ないんだけど、こう言ったら絶対に口出ししてこないと思って…。
大きな意味で言えば家の事情だから、嘘ではない。
松村家の長男という事実を鑑みたのか、啓介は眉を下げながらも頷く。


「…分かった〜。でも、その一週間が明けたら一緒に遊ぼうね!!」
「あぁ、分かった」
「私も同行しますね」
「俺も同行します」
「……俺も」


先程の罪悪感もあって了承すると、智也たちが次々と名を挙げる。
そ、そんなに遊びたかったのか。
数ヵ月前の引き継ぎ期間でのギスギスした雰囲気が嘘のように、今では仲良しこよしだな。
ぷくぅ、と少し拗ねたように頬を膨らませる啓介に俊太が、諦めて下さい、とか言ってる。
何を諦めるんだ? …まぁ、良いか。


「会長の仕事は全部終わらせた。もし、緊急なことがあったらメールしろ。くだらねぇメールは無視する。電話には基本出ない。接触に関しては、状況によって俺が判断する」
「……物忌みでもするかのような徹底振りだな」


物忌みって、穢れに触れないように部屋に籠る、みたいな意味だったよな。
日本史での知識しかないから正しくないかもしんないけど…例えが侍過ぎて憧れます兄貴。
俺は鞄を手に取って立ち上がり、不自然にならないように口を開いた。


「あと、連絡つかないことをレイにも言っておけ」
「私たちから麗斗君に、ですか?」
「麗ちゃんになら悠ちゃんから言えば良いのに〜」
「松村君は松村会長の事情とやらは知らないんですか、弟さんなのに」
「……俺も麗斗には悠里から言った方が良いと思うが」


お前らの言い分はごもっとも。
そう言われることも分かってたさ。
でも、今レイと話したら絶対にボロが出る。
俺は痛む心を顔には出さず、皆の言葉を無視して扉へと足を進めた。


「言いたいことは無いみてぇだな。じゃあレイの件、頼んだ」
「え、あっ、悠ちゃん!?」
「行って、しまいましたね…」


生徒会役員は半ば呆然としながら、引き籠り宣言をした生徒会長の背を見送った。



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