【柳原学園】
□第三章
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さて、長くなったけど、生徒会役員になったとなれば優遇されるのが柳原学園。
その中には『授業免除』という権利もあるわけで。
「生徒会役員になってから、授業に出た方はいますか?」
「俺はそれなりに出てますよ」
「……俺は、時々」
「ぼっ、僕は〜…えへっ」
啓介……か、可愛いっ!
っ、じゃなくて…意外と出てることにびっくりだよ。
「俺は一回も出てねぇな」
「恥ずかしながら、私もですね」
「悠ちゃんと智ちゃんは良いよ〜…」
「一位と二位ですもんね」
実はそうだったりする。
俺は中等部の時からテストで一位を独占。
皆俺は努力してない天才だとか思ってるみたいだけど、…と言うか思わせてるんだけど、本当は寮で頑張ってるんだよ!
中等部でも人数的なことで一人部屋だったのには、本当に助かった。
智也も俺に次いで二位独占。
智也はそれでも驕らずに、自分で努力してんだよな。
でも、役員になってからは智也も授業出てないのか。
「……会長と副会長は、俺たち以上に仕事があるからな」
「学園はどれだけ生徒会に頼ってるんでしょうね、ほんとに」
「流石に悠ちゃんも智ちゃんも成績落ちちゃってるんじゃないの〜?」
「馬鹿言ってんじゃねーよ。俺がまた一位取るに決まってんだろうが」
寮に戻ったらちゃんと勉強してますんで。
幸い頭の出来は悪くなくて、だいたい毎回満点だしな。
そんな風に自信たっぷりに言うと、棚に資料を並べていた智也が、すいっと俺を見てきた。
「悠里」
「なんだ、よ……」
つい語尾が小さくなってしまった。
だって智也の視線が、鋭いものだったから。
今まで、こんな目を見たことがあっただろうか。
何か怒られるようなことしたっけ、俺…。
王子フェイスと鋭い視線に、内心たじたじだ。
すると智也は、予想外のことを口にした。
「勝負しませんか」
「…、勝負?」
まさかあの智也から、勝負なんて俗っぽい単語が出てくるとは。
何だお前、王子から王宮騎士へとジョブチェンジするつもりか。
ランク下がってるけど、騎士の方が怖いぞ。
勝負なんて言い出した智也に、啓介たちも驚いているようで。
「どうしたんですか、工藤副会長…」
「勝負って、どんな勝負〜?」
「次の期末テストで、どちらの順位が上かの勝負です」
「……何故、突然?」
桃矢の問いに、智也は目を伏せた。
「…突然、ではありませんよ。私は中等部の時から、悠里に勝つことを目標にしていますから」
「えっ、そうだったの〜?」
「中等部から松村会長と工藤副会長は知り合いだったんですか?」
「いいえ。私が一人で、思っていただけです」
だから悠里は知りませんよ、という智也の言葉に呆然とする。
つまり、あれだよな。
智也は俺をライバルだと思ってたってことだよな。
しかも、中等部から。
うわ…俺知らずに、今までかなりヒドイ対応してきたんじゃないか?
さっきの一位取るに決まってんだろうがってのも、智也もまた二位だろって言ってるようなもんだし…俺最低じゃん。
「勝負、していただけませんか。悠里」
再度言う智也に、俺は一瞬迷って拳を握る。
智也には知らず知らずの内に、ヒドイ対応したかもしれないんだ。
勝負することで、少しでも智也の気が晴れるなら。
「──良いぜ? 次の期末テストでどちらの順位が上か。受けて立ってやるよ、智也」
「ありがとうございます」
にこりと微笑む智也に、俺は不敵な笑みを返す。
うん、取りあえず智也が怒ってるわけじゃなかったから良かった。
そう安堵していた俺に、智也は微笑みを浮かべたまま言い放った。
「では、勝った方は負けた方に一つだけ願いを叶えてもらえるということで良いですよね」
「……は?」
「え〜! それズルいよ、智ちゃ〜ん」
「まさか工藤副会長が…」
「……本気だな、智也」
俺は目を瞬かせて、やいのやいの騒ぐ皆を見る。
…あれ、何かもう決定しちゃった感じ?
ここで嫌だとか言ったら、おま、空気読めよ、な痛々しい感じに…。
…と、とにかく、一位取れば良いんだよな!
何を思って勝負を申し出てきたのか。
智也の真意を知らぬまま、柳原学園はテスト勉強一色になった。
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