【柳原学園】

□第三章
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俺はその足で、風紀室に向かった。
風紀には御子柴がいるからな…いや、別に緊張とかしてないし。
風紀室の前に立ち、ふぅと一呼吸してコンコン、と扉をノック。
そしてささやかなプライドとして返事を待たずに開けてやった。


「おい、邪魔する、ぞ…」


って、あれ? 誰もいない、のか…?
パッと見風紀の姿が見えなくて、中に足を踏み入れる。
すると風紀の資料室が開いて、中から出てきた平風紀委員が目を見開いた。


「まっ、松村会長……!?」
「他の風紀はどこだ?」


御子柴率いる風紀委員だけあって、俺に恋愛感情は抱いてないっぽいけど、突然の訪問に動揺している模様。
そこまで反応されると申し訳なくなってくる。


「え、っと、今の時間帯は見回り行ってます」
「……そうか」
「委員長に用事なら、呼びましょうか?」
「いや、今回は会長としての用事じゃねぇ」


そう断りながら、思案する。
うーん…、今風紀室にはこの如何にも事務仕事を得意としてそうな風紀委員一人。
しかも資料室から出てきたってことは仕事中ってことだろ?
……よし。


「たいした用事じゃねぇし、俺が来たことは言わなくて良い」
「たいした用事もないのに、あの会長が風紀室に…!?」
「あ?」
「うわっ、すみません!」


コイツ、なかなか言うな。
いやまぁ、言いたくなるのも分かるよ、うん。
さて、これ以上ここにいても仕方ないし、風紀委員同行無しで身体測定行くか。
啓介とかなら危ないけど、流石に測定者が俺に抱いてほしいとか言わないだろ。


「じゃあな、風紀委員」
「え、あ、はい、お疲れ様でした…」


何事もなく出ていく俺の背に、不思議そうな視線を感じながら風紀室を出て、保健室に向かう。
一般生徒は体育館で一気に実施するけど、生徒会役員はたった五人、しかも各々暇な時バラバラに行くから保健室でも充分ってわけだ。
生徒会役員測定期間中は、保健室に測定者が常時いることになってる。
だから……志春と二人きりにはならないってことさ!!
気になっていないかのように振る舞ってたけど、何度もセクハラされれば俺でも気にするわ。
行くのに躊躇される保健室とか、ぶっちゃけ最悪じゃね?
でも誰かいるなら、志春も流石に……。


「あァ、測定者なら緊急の仕事が入って帰ったぜ?」
「……じゃあ、また今度」


意気揚々と保健室の扉を開けた俺は、コーヒーを飲んで寛いでいた保健医の志春から告げられたその言葉に、くるりと方向転換した。
しかしぐわしっ、と肩を掴まれて保健室に引きずり込まれる。


「おいおい、直ぐ帰るなんてつれねェなァ」


ヒィ!! 肩組まれたんだけど!
超良い笑顔なんだけど!!
相変わらず色気垂れ流しやがって、このエロ保健医が!
なんて動揺を悟られることのないように、俺は顔をしかめる。


「測定者が居ないんなら、ここに居ても仕方ねぇだろうが」
「何言ってんだお前。そこらの測定者に出来ることが俺には出来ないとでも思ってんのか」


俺から離れた志春は、こっちに来いと俺に言う。
そこには身体測定の道具の数々が。
俺がやってやる、ってことかな…。
志春が出来ないとかは思ってない。
社長御令息とかお偉いさんの息子がごろごろ集まってる柳原学園の保健医を任されてるんだから、志春は結構凄い奴なんだと思う。
でもさ…セクハラはいただけないよね、って話だろ。


「志春がやって良いのかよ」
「そもそも本来なら俺が全員やるべきなんだよ。ただそれじゃ手が足りねェから外部から呼んでるだけだ」
「俺は別に他の日でも…」
「良いから、早く来いっつってんだろうが、松村ァ」


白衣のポケットに手を突っ込んで眉根を寄せるその姿に、俺は地味な抵抗を諦めた。
このまま帰ったら俊太からまたグチグチ言われるだろうしな。


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