【柳原学園】

□第三章
21ページ/43ページ




☆☆



「あう〜」


のべー、っと啓介が唸りながら机に突っ伏した。
そんな啓介のもとに歩み寄り、俺はぽんっと書類で啓介の頭を叩く。


「おら、サボってねぇでコレの計算しろ」
「悠ちゃんのオニ〜! 沈んでる仲間に向かってその仕打ちはないよ〜。大丈夫? ってぐらい訊いてよ〜」


そうぼやきながらも書類を受け取った啓介は、然り気無く俺の手を握ってきた。
しかし俺は手を払って、ハッと鼻で笑う。


「この俺にそんなモンを求めるなんざヤベェな。大丈夫か?」
「頭の心配はしなくて良いんだってば〜!」


そんなやり取りをしながら俺は会長席に戻った。
ふぅ…良かったぁ。
手を握られても動揺しなくなってきたぞ。
あの身体測定の件からしばらくして、俺は触れられても以前のように軽くあしらえるようになった。
いや、だってさ、身体測定から何か妙に啓介にベッタベタされて。
いつも以上にだよ?
もう赤面隠すのに必死だったんだけど、そんなされれば慣れるってもんで。
だから手を握られようが、もう大丈夫!!
つまんないの〜、なんて啓介の呟きが耳に入った。
さっき渡した会計書類のこと言ってんのかな?
そりゃ、仕事は楽しいものじゃないからなぁ。


「アンタが面白がって触りまくるからでしょ…」
「えっ、何で僕が沈んでるか訊いてくれるの〜? やっさしいな〜、俊ちゃんは〜」
「うわ、巻き込むの止めて下さいよ、里中会計」


ツッコむんじゃなかった、と俊太が嫌な顔をしてる。
そう言えば、さっきから啓介元気ないよな。
どうしたんだろ?
啓介はショボーン、と肩を落として口を開いた。


「もうすぐなんだよ〜……期末テスト」


その言葉に、生徒会役員全員が納得したように頷いた。
夏休み前に行われる期末テストが迫ってたんだった。


「期末テストで何で沈んでんだ、テメェは」
「テストで喜ぶ学生がいたら拝んでみたいよ〜、僕」
「里中会計はいつも二十位以内に入ってるじゃないですか」


そう言う俊太も、確か三十位以内には入ってたはずだよな。
柳原学園はお偉いさんの息子の集まりだけあって、レベルが高い生徒が多い。
そりゃあ、中には悪い生徒もいるけどさ。
そんな中で三十位以内というのは、なかなかの成績なんだよな。
桃矢は十位以内だったかな…剣道との両立が出来てるとか本当に尊敬します兄貴。


「だって、生徒会に入ってから初のテストだよ〜。成績落ちてないか心配じゃないの〜?」


そっか、そうだった。
俺たちは一年生の二月の生徒会選挙で役員に選ばれた。
全員が一年生っていうのは異例らしい。
柳原学園の生徒会の仕組みを大まかに説明すると、役員対象者は高等部一年生から三年生。
三年生は受験を控えてるから駄目なんじゃないのって俺も昔は思ってたけど、生徒九割の承認と教師の話し合いを経て、理事長の許可が下ればなれるらしい。
相当ハードル高いんだけど、それをやり遂げてしまったのが、前会長と前副会長だ。
あの人たちは凄いとしか言いようがない。
もう卒業して学園にはいないけど、引き継ぎするために補佐になって一緒に過ごした二月と三月の二ヶ月間で、それをひしひしと感じたもんだよ。
あの人ぐらいなら、俺様の演技なんて必要ないんだろうなぁ。
ちなみに前会計、書記、庶務は現在三年生。
あの人たちも凄くて優しいんだけど、前会長に俺たちの手助けは絶対するなって命令されたんだってさ。
先輩たちは謝ってきたけど、それは前会長の愛のムチだってのは俺たち皆分かってる。
むしろ俺は、期待に応えようって思うぐらいだよ。
親父に言われて目指した生徒会長だけど、前向きに続けられてるのはあの人のお陰と言っても過言じゃない。



.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ