【柳原学園】

□第三章
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「さて、っとー」


綾部の声に、内心ビクリと震える。
俺は今、風紀室の指導部屋に居ます。
あの後俺は、未だに見回りから帰ってきてなくて先程の平委員しかいない風紀室に連れてこられて、そのまま指導部屋に入れられた。
ま、まさか俺が指導部屋とか…うぅ、情けない。
俺はソファに座って、綾部は俺の前のソファに座る。
シン、という沈黙が気まずい。
すると、ぷっと吹き出した音が聞こえた。
顔を上げると、肩を震わせて笑っている綾部が。


「大丈夫だってー、ユーリ会長。ただ事情聞くだけだから。ってかオフレコで良いし」
「オフレコって…風紀の事情聴取じゃねぇのかよ」
「いや、萌ネタを提供してほしいだけー」


なんだよ、それ…ビビってた俺が馬鹿みたいじゃんか。
うーん、でもネタって言ってもなぁ。
こういうのって、軽々しく言っちゃ駄目だと思うんだよな。
少なくとも志春も俺も、真剣だったんだから。
黙ったままの俺を綾部はじっと見ていたが、突然頷いた。


「じゃあユーリ会長、こうしよう。俺が質問するから答えてよ。答えたくなかったら無視して良いからさー」
「質問…分かった。さっさと終わらせろよ綾部」
「了解ー。えっとー、志春ちゃんにキスされた?」
「っ、…」
「ふむ、成る程ー。じゃあ次ね」


って待てよ、これ、バレバレなんじゃねーの!?
成る程って、俺答えてないのに納得されちゃってるしさ!
どうしよう、助けてくれ智也!
待てよ、口では俊太の方が良いのかな…いや、アイツは綾部と一緒に質問してきそうだ。


「ディープかなー?」
「……」
「胸とか攻められた?」
「なっ、に言ってんだっ!」
「でも太腿は撫でられてたよねー」
「……」
「触られた?」
「……何を」
「ナニを…って分かんないか。ユーリ会長のムスコさん」
「っ、触られてねぇ!!」
「へぇー、意外だなー…。後ろは?」
「うしろ、って…」
「突っ込まれてないよね?」
「〜〜〜っっ…!」


明け透けな綾部の物言いに、かぁぁっと顔に熱が集まる。
こいつ、チャラ男とか言われてるだけあって遠慮がない…っ。
手の甲で口元を隠す。
い、今になって恥ずかしくなってきた。


「…あー、マズった。ゴメン、質問はこれで終わるよ」
「え?」
「志春ちゃんを意識させたら本末転倒だしねー…」


ぼそりと呟く綾部に首を傾げるも、終わったことに安堵する。
俺は割りと性的なことに淡白らしくて、中等部では何人か頼み込まれて抱いたけど、今では面倒で相手にしたことはない。
勿論、相手をしたことも。
だから、性的な話はあまりしたことなくて、照れてしまう。
顔の熱さが引かなくて内心困っていると綾部が、ねぇねぇ、と喋りかけてきた。


「せっかくだしさ、俺の話聞いてよー」
「いや、俺は生徒会室に戻…」
「聞いてくれたら今日のこと誰にも言わないからさー。保健室には俺が同行したことにするし、口裏合わせもしてあげるー」


その提案は何とも魅力的だった。
いや、でもそれって狡くないか?
生徒会長がそんな後ろめたいことをしたら…。


「庶務クンに言ったら毒舌飛び出してくるんだろうなー」
「仕方ねぇな、相手してやるよ」
「やったー」


皆、ごめんなさい。
ちょっと目を瞑ってて!
綾部は何話そうかな、と楽しげに身体を揺らしている。
そう言えば、綾部と一対一で喋ったことない…かも?
せっかくだし、ちゃんと話してみるのも…。


「じゃあ、この前見たBL本の話を一つ!!」


綾部はどこまで行っても綾部だった。
俺ははぁ…と息を吐く。


「…悪いが、俺はレイや森宮みてぇに一緒に騒いではやれねーぞ」
「分かってるよー。……聞いてくれるだけで、良いからさ」


目を細めて微笑む綾部に、そうかと頷くことしか出来なかった。



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