【柳原学園】

□第二章
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ゼーハー、と俺は荒い息を繰り返す。
さっき俊太に『アンタの人気、自覚してます?』とか言われて当たり前だろとか返したけど、うん、ごめん。
ぶっちゃけ分かってなかったよ。
だってまさかいつも遠目で見てくるだけの可愛い子たちが、こんな…っ。


「悠里様ぁぁぁああ!!」
「待って下さいぃぃぃいい!!」


うわぁぁぁぁああ!! ヤバい、超怖い!
俺は今、全速力でチワワの皮を被った鬼から逃げています。
鬼スタートの合図が鳴ってから暫くすると緑の腕章をした可愛い子に見付かった。
どう見ても運動部じゃなさそうだったし、もしそうだったとしても俺の方が足の長さがあるから逃げ切れると思ってタラタラ走ってたら。
そのチワワが仲間を呼び、その仲間が更にチワワを呼び、大軍団となって俺を追いかけ始めた。
チワワがまさかこんなアグレッシブになるなんて…!!
もう一時間以上走ってるんだよ、俺…。
あと一時間、もつのか…っ?
俺は校舎に逃げ込む。
チワワみたいな外見でも、やっぱ男だな。
スタミナが女の子とは違う。
この俺が、素になりそうなぐらいに焦るとは…チワワ軍団恐るべし。
俺は物影に隠れて様子を窺う。
すると足音が近付いてきた。


「悠里様、こっちに行った?」
「うん、多分」


うわっ、もう追ってきた!
ヤバい逃げないと…。


「もうこの辺にしかいなくない?」
「だね」


…挟み撃ち…だと…っ!?
意図されたモノじゃないっぽいけど、左右から鬼の声が…ヤバいヤバい!!
一人に見付かったらまたあのチワワ達に追い掛けられる。
もう逃げる側としてじゃなくて俺様生徒会長としての余裕が無くなってきた。
絶体絶命じゃん…っ。
そう半ば覚悟を決めていた俺は、突然。


「……っ!?」


誰かに腕を引かれて、立入禁止区域の教室へ引き込まれた。
うえぇ、何なに!?
生徒会長に不満を持ったヤツがまさか俺を…っ。


「──黙れバ会長」


ドサリと尻餅をついた俺は口を手で覆ってきた人物を視界に入れて目を見開く。
声を出せないでいると、教室の外で俺を探し出せなかった鬼の声が遠ざかっていった。
気配が完全になくなって、口を覆っていた手が下ろされる。
そして俺を後ろから抱き抱えているヤツに振り返った。


「…っ何でお前がこんなとこにいるんだよ、クソ風紀っ!!」
「助けてやったんだろうが、感謝しろ」


俺を絶体絶命のピンチから救ってくれたのは、眉間にシワを寄せた御子柴だった。




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