【柳原学園】

□第二章
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「ぷっ…はははは!!」
「け、啓介?」


突然、横から笑い声が弾けた。
まさか啓介がこんな…何て言うか、普通の男子高校生みたいに笑うなんて思わなかったから、少し素が出てしまった。
啓介は笑い涙を目に溜めて、突然くいっと俺の顔を上げさせた。
ちょっと首痛いんだけど。
俺は眉根を寄せて啓介を睨む。


「何すん…」
「ま、…それでこそ悠ちゃん、だよね」


にっ、と口の端を上げて目を細める。
あれ、ちょっと啓介さん?
なんで可愛い君が、そんな男らしい笑みを浮かべているのかな。
居心地の悪さマックスなんだけど。


「あはは、悠ちゃんかわ…っうわ!?」


突然、横からの妙な圧迫感が無くなった。
内心ホッとして啓介を見ると、誰かに抱き上げられている。
ストンと下ろされて、啓介は後ろを振り返った。


「あれぇ、桃ちゃん戻ってたんだね〜」
「……あぁ。…大丈夫か、悠里」
「あ、あぁ。大丈夫に決まってんだろうが」
「剣道の朝練の指導お疲れ様でした、桃矢」


啓介を抱き上げて俺から離してくれたのは、書記の二年、黒田桃矢。
生徒会の中で唯一俺より背が高くて、髪は頭頂部で束ねて腰の所で揺れている。
基本静かだけど、剣道の腕前は師範代の、兄貴!! って呼びたくなる細身な男前さんだ。
登校した俺と入れ替わりで、剣道部の指導に行ってたんだよな。
いやもうほんと、俺の憧れです。
桃矢はスッと啓介を咎めるように見た。


「……啓介」
「分かってる〜。ちょっとした悪戯だもん。俊ちゃんごめんねぇ。僕は俊ちゃんも好きだよ〜」
「うわっ、ほんとに抱きついて来ないで下さいよ、鬱陶しい」
「俊ちゃんも良い匂いだね〜」
「!! ……匂いフェチですか、アンタは。そんなこと、甘い匂い漂わせてる里中会計に言われたくないですよ」
「えへへ〜。……俊ちゃんの、その察しが良いとこも好きだな〜、僕」
「そりゃどーも」


お、何か分からんが仲直りしたっぽい。
啓介の後半の言葉は小声で聞こえなかったけど。
でもそうか、啓介は匂いフェチだったのか。
だから俺の匂いとか嗅いできたんだな、納得。


「匂いフェチなのは結構だけど、もう俺にはすんじゃねーぞ、啓介」
「えへへ〜、分かった〜」


何でそんな満足そうな表情してんだよ。
智也と桃矢も苦笑してるし。
…もう良いや、終わったってことで。
つか、何の話してたっけ。
あ、新歓の企画の話だったな。


「桃矢、新歓で何かしたいことはあるか?」
「……特には思い付かない」
「そーか…」


うーん…立食パーティーが駄目となれば、何が良いんだろ。
こう、学年関係なく簡単に交流出来るような……。


「そりゃあ、『鬼ごっこ』一択でしょ、ユーリ会長」
「『鬼ごっこ』? …って、テメェ何勝手に入ってきてんだクソ風紀二号」
「どもどもー。クソ風紀二号こと、風紀副委員長のおでましだーい」


そんな風に騒がしく生徒会室に入ってきたのは、『俺様生徒会長』の俺と仲の悪い風紀委員のナンバー2、綾部和樹。
下半身ゆるっゆると噂されてるチャラ男だ。
俺自身は嫌いじゃないんだけど、『俺様』を演じてたら流れ的に仲悪くなっちゃったんだよな、風紀委員とは。
クソ風紀二号もとい、綾部はパタンと扉を閉めて楽しげに手を広げた。


「ふふん、何故俺がここにいるかって? それは生徒会室からの萌えパワーが俺を呼んでいたからさ!」
「は? 燃えパワー?」


何だ、燃えパワーって。
火の気のことか。
給湯室は生徒会室にあるっちゃあるけど、今は誰も使ってないし、火の気はないはずなんだけど…。


「テメェの思い違いだな」
「あれっ、そうかー。俺様会長×役員が見られそうな気がしたんだけどなぁ」
「カズっちのレーダー、完璧に壊れてるな〜」
「えっ、か、会計クン、それは一体どういう意味で!? そこら辺をk、w、s、k…ごふっ!!」


鼻息荒く目を輝かせていた綾部の背後の扉がノックもなく開いた。
そのせいで扉は綾部の背中に直撃、前につんのめる。
生徒会室にノックもなく無礼に入ってくるヤツっつったら……アイツしかいないよ。


「…あ゛? 扉の前に突っ立ってんじゃねーよ、バカが」
「りゅ、竜二…、君はまず謝るということを知ろっか…」
「バカに対する謝罪はねぇ。──よぉ、バ会長」
「……来やがったな、クソ風紀一号」


『俺様生徒会長』と超絶仲が悪い男。
風紀委員長二年、御子柴竜二。
お前が率先して風紀乱してるんじゃん、と素の俺でも言いたくなるような不良さん。
中学の頃から俺とは仲が悪くて……所謂同族嫌悪みたいなものだと思う。
御子柴は紛う事なき『俺様』。
でもカリスマ性があって、舎弟さん達にも慕われてる。
因みに風紀委員の半分くらいがその舎弟さん達。
トップの御子柴が風紀委員長だから、御子柴配下の不良さん達は割と大人しめで生徒会としては助かってるんだよな。
感謝してるんだ、本当は。
でも俺は『俺様』だから、ありがとうの一つも言えない。
それに……。


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