【柳原学園中等部】

□第二章
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(※男女R-18)


綾部はただ何となく日々を過ごしていた。
クラスメイトとはそこそこ話し、だからと言って特別仲の良い友人を作ることもなく。
話し掛けられれば笑みを見せ、授業中は人並みにノートを取り。
体育では持ち前の運動能力を見せることなく、いつも真ん中くらいの成績を取り。
行事では本気にならず、かと言ってサボらず。
良い意味でも悪い意味でも、目立たず、浮かず。
例えば、物語の中心があの松村悠里や御子柴竜二のような人間だったのなら。
綾部はモブキャラのように、誰の目にも留まらず、生活を送っていた。
ただそれは、学園での話である。


「まさか、お前が、黒アゲ…ぐはっ!」


すたん、と地に足を着けたのと同時に、男が倒れた。
綾部はその男を見つめた後、ぐるりと周りを見渡す。
どこかの族のアジトの中は、死屍累々。
それを無感情の目で眺め、フードを目深に被って綾部はそのアジトをあとにする。
黒揚羽。
自分が暴れ始めて付けられた名だった。


「…不吉の象徴、ってことか」


小説、ドラマ、特にミステリーなんかでは不吉の象徴として描かれる黒アゲハ蝶。
言い得て妙かもしれない。
恰好から付けられた名前かもしれないけれど。
愛人の子、忌避される子、はぐれもの。
存在そのものが不吉の象徴みたいなものなのだから。


「ねぇえ? そこの僕。お姉さんとイイコトしない?」


街を歩いていると、甘ったるい声に呼び止められる。
振り返ると、肌を露出した若い女性が、にっこりと笑っていた。
綾部はその女性をじっと見つめて、口を開く。


「…回りくどい。セックスしたいならしたいと言え」
「あら、僕はおませさん? 慣れてるのかしら」
「…お前みたいな女がよく声をかけてくるんだよ」


街で暴れ始めてから、よく声を掛けられていた。
若い、と言うか最早幼い部類に入る男が好みなのか知らないが、よくやる。
こういう女は、可愛がりたい、という欲求があるらしい。


「…俺はお前の望むような"お可愛い"反応はしないし、その穴に、突っ込まれるのはお前だ」
「直球ね。いいじゃない。そこのホテル取ってるの。行きましょ?」


そっと手を取られ、ホテルへと連れ込まれる。
そこのハッテン場で、とか、廃工場で、とか言う女よりはマシな女らしい。


「お姉さんのこと気持ちよく出来たら、お小遣いあげるわよ」
「…金は良い。俺もお前も発散出来る。それでもうつり合いは取れてるだろ」
「ふぅん…お金には困ってないのかしら?」


それに答えないでいると、ぎし、とベッドの軋む音と共に女が綾部の上に乗ってくる。
その手がフードを脱がせた。


「綺麗な金髪ね。それに、顔も綺麗」
「…どうでもいい。さっさと済ませろ」
「せっかちなのね。まぁ、そういうプレイも嫌いじゃないけど」


女は顔を綾部の股座に近付け、長い髪を耳に掛けながら、口でズボンのチャックを開けて前を寛げさせる。
こういう一つ一つのテクニックで興奮する男もいるんだろう。
パンツを少しずらされると、綾部の陰部がさらされる。
女はそれを見て、うふ、と笑った。


「口調は大人っぽいけど、まだまだ可愛いわね」
「…この前までランドセル背負ってた男に何言ってんだ」
「思ったより幼いのね? まぁ、私は全然構わないけれどね」


街にいて、こういう誘いをしてくる女は総じてまともな感性をしていない。
夜の街は善悪の境界が曖昧だった。
それはとても心地よくて。


「ん…」


女はぱくりと綾部の陰茎を口に含んだ。
何回かされたことのあるその刺激に、綾部はピクリと眉を動かす。
喉の奥で締め付けて、裏筋を舌でなぞる。
ぴちゃりと水音を立て陰茎を弄び、手で陰嚢をやわく揉む。


「…っ」
「気持ちいい?」
「…そこで喋るな」


舌で鈴口を割られ思わず息を詰めると、女は恍惚とした表情で問いかけて来る。
その喋る刺激も、吐息も、全てが男としての本能に直結する。
ゆるりと勃ち上がったそれに、女は満足したようにフェラを止めた。


「さて、じゃあ、お姉さんのココに、挿れてみる? きゃっ」


妖艶に自らの下腹部を指し示した女を、綾部は押し倒す。
さらりと落ちてくる金色に、女は目を細めた。


「あぁ、本当に、綺麗な金色」
「…あとは俺の好きにする。お前は啼いてろ」
「楽しみにしてる…ぅんっ、ふふ、気持ちいでしょ」


柔らかく大きい胸を揉むと女は少し声を漏らす。
男のヤるために、ワンピース型の服を着ているのだろう。
服をいちいち脱がせる手間もなく、勢いで出来る。
胸の蕾を口に含みながら、片手で胸を揉み、もう片方の手を下半身へと滑り込ませる。
下着の上から触れると、少しだけ湿っていた。


「…余裕ぶってても、濡れてはいるんだな」
「ぁっ…うふ、だって君、私のドストライクなんだもの」


女は綾部の両頬を包み込んだ。
濡れた瞳でじっと見つめられる。


「こんなに幼いのに、もう何にも期待してないような目。とっても居心地がいいわ」
「…期待されるのが嫌なのか」
「いや。いやよ。だって私、何も出来ないの。もう落胆されたくないの」


期待する側、される側。
立場は違うが、どこか綾部と似た感性なのかもしれなかった。
ただ、ありのままに、と。


「…なら安心しろ。俺は行き擦りのお前に、何ら期待していない」
「そう言ってくれると思った。んぁ、あ、んぅ…っ」


下着の上からクリトリスを弄ると、女は綾部の腕に縋り啼く。
ハッ、と綾部は口の端を上げた。


「…慣れていそうな割に、随分と感度が良いんだな」
「ん、で、しょ? 言っておくけど、あ、演技、じゃ、ないわよ、っ」
「…舐めてやろうか」


べっ、と赤々としたベロを出すと、女は興奮したように笑う。


「僕が、そんな、こと、出来るの?」
「…一通りヤラされたんだよ。お前のような女に」


了承の言葉だと受け取った綾部は、女の下着を取り払う。
そこから陰毛のない綺麗な、濡れ切った割れ目が姿を現した。
毛があろうがなかろうが別に構わないが、ない方がヤリやすくはある。
綾部は女の股に顔を埋め、まずは大陰唇に口付ける。
独特な臭いと、むわりとした、温度。


「…ふっ」
「どう、したの? やっぱり無理?」
「…別に。思い出し笑いをしただけだ」
「あら、えっちな証拠よ」
「…今まさしくセックスしようって言うのに?」


ほんとね、と女は楽しそうだ。
ただ、ふと。
母が本当の母ではないと知る前。
褒めて欲しい、見てほしいと頑張っていた頃は。
数ヶ月後にこんなことをしているなんて、思っていなかったなと。
ただ、そんなことを思って。


「あぁっ、あ、やっ」
「…ん、ふ…」


舌で割れ目をなぞり、クリトリスを刺激する。
ゆっくりと、柔らかく。
そして急に、強く。
その緩急に女は喘ぐ。
女の股を濡らす水を、綾部はわざと淫靡な音を立てて吸った。
女を気持ちよくさせず、ただの性処理としてすることも厭わないが。
何となく、この女は気持ちよく啼かせてやろうと思った。
自分と似たような目をしていたからかもしれない。


「っ、おね、がい、もう、いれて、ねぇっ」
「…そうだな」


甘酸っぱい想いがなくても、勃つものは勃つ。
そそり勃った先から、先走りの汁が滲んでいた。
綾部は自分のモノに、部屋に備え付けられていたコンドームを付ける。


「いれるばしょ、わか、る?」
「…今更か?」
「へへ、そうよ、ね、ほら、ここぉ、あ、あ、ぁっ! あ…、っはい、ったぁ」


くぱぁ、と女は自ら割れ目を広げた。
てらてらと、ぬめるその穴は、はやくはやくと、女の気持ちを如実に語るように。
ピクピクと痙攣していて。
綾部は一つ唾液を嚥下し、自分の腰を近付けると、濡れた粘膜が亀頭に吸い付いた。
綾部はそのまま、ずっ…とゆっくり、その穴に自らを挿入した。


「…動くぞ」
「う、んっ、あはっ、やっさしぃー」


ここで優しいという女。
どんな男を相手にしてきたのか、察せるというもの。
しかし綾部は何も言わず、そのまま陰茎を奥まで挿れる。
そしてゆっくりと抜き、次は先程より少し早く挿れ込む。


「ん、あっあっ、んふっ、じょーず、ねー」
「…そ、れは、どーも」
「えへへー、ごほーびだー。えいっ」
「…く、ぅ…っお、まえ…っ」


きゅ、と突然膣が締まり、陰茎が締め付けられた。
その刺激に一瞬頭が真っ白になりそうで、綾部は女を睨み付ける。
女は悪戯が成功したように、にひひと笑った。


「おねーさんのこと、きもちよくしてくれてる、お礼よー」
「…お姉さんお姉さんって、お前」


綾部は、先程から思っていて、しかし口にしなかったことを告げる。


「…お前、そんなに歳、行ってないだろ」
「えー? あんっ、なん、でー?」
「…口調、幼くなってる。それが素か」
「え? あ、あは、ほんとだー。んっぁ、バレちゃったー」


誘われた時とは違う、幼い口調。
語尾が少し間延びしている、他人に敵意を持っていないと分かるような。
ぐ、と腰を押し付けると、甲高い声が漏れる。


「は、っ想像以上に、じょーずで、やさしーから、んふ、気が、抜けちゃったー」
「…化粧で誤魔化しても、いるんだろうが」
「そうなのー、だからね、誘った男の人たちはみーんな、気付かずに、やっちゃうのよ」


私が、こんな歳だって、知らずにね、と。
女が手で示したその数字に、思わず綾部も目を見張る。


「…何がお小遣いをやるだ。お前も貰う側だろ」
「いいのー、私、お金だけは、持ってるからー」


お金を持っている。
期待されている。
それでも、何も出来ない。
本当に、この女は。
何となく、もう止めるかと、言おうとした瞬間。
ぎゅっと、女に抱き締められた。
女らしい、柔らかい胸に包まれる。


「最後まで、ヤってほしいなー」
「……」
「優しいねー、金髪クン。本当に、優しいねー。会えて良かったなー」
「……」
「だからね、優しい金髪クンにお願い。私を、イかせてほしいなー。そしてねー」


君も一緒に、イってほしいな、と。
抱き締められて女の表情は見えないが。
綾部は少し目を閉じて、その腕から抜ける。


「…俺がいつ、止めると言った?」
「あは、そうだねー。最後までヤろうじゃーん」


にっ、と笑う女に綾部は笑い掛けることはしなかった。
しかし女はほんの少しだけ、さっきよりも優しく触れられている気がした。
そしてお互いが絶頂して、ずるりと女の身体から綾部が抜けて。
綾部はコンドームを処理しながら女に背を向け、ベッドに座る。
女はその背中を見つめた。


「金髪クンはどうして、夜の街にいるのかなー?」
「…どういう意味だ」
「悪に憧れてとか、心底誰かを傷付けたいとか、そういう感じじゃないよなーって」


綾部が、夜の街に繰り出す理由。


「…ムカつくから。発散するためにいる」
「まー、そういうこともあるよねー。私も発散するためにいるしー」
「…深くは聞いてこないんだな」
「それはお互いさま、ってやつじゃなーい?」


夜の街で深く関わる。
余程の信頼と、信用がないと、出来ることじゃない。
そして綾部は、そんな相手を作る気はさらさらなかった。
綾部は服を着て立ち上がる。
女はシーツに包まりながら尋ねた。


「ほんとにお小遣い、いらないのー?」
「…いらない。ホテル代はお前持ちだろ。それで良い」
「そっかー。…うん。君に会えて良かったよ」


女はバイバイ、金髪クン、と笑う。
綾部はその女に手は振り返さず、視線を向けただけ。
そして綾部はそのホテルをあとにした。


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