【霞桜学園】

□第二章
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「……以上が、今回の合同総会の内容だ」


合同総会の翌日、生徒会役員と風紀委員長、副委員長、間宮に同行した特風の神山との話し合いの場が設けられた。
内容は昨日の合同総会での各校の発表をまとめたもの。
間宮からの報告に、なるほど、へぇ、といった声がちらほらと上がる。


「各校いろいろな活動をしているんですね」
「ねぇねぇっ!」
「質問良いかなっ」


空と海がはいはーい、と元気よく手を挙げた。
間宮が何だ、と質問を促すと、双子は資料を捲る。


「ここのページに書いてるけど、何校か『プルタブ・ペットキャップ運動』っていうのしてるよね?」
「これって何なのかなっ?」
「プルタブやペットボトルのキャップを集めて発展途上国へのワクチンを作るんだと」


間宮が答えると、神山以外が一様に首を傾げた。


「それなら現金とか小切手とかワクチン現物とか送った方が良くない?」
「…あのな、一般の家庭や学校がそんな大それたことそうそう出来るわけねぇだろ」


そのお金持ちの発想に、一般家庭代表神山が呆れたように口を出す。


「そんな大金を送るのは難しい。でも気軽に買える缶やペットボトルに付いてるものなら集めやすい」
「なるほどー」
「塵も積もればってやつだねっ」
「それなら…霞桜で、も、出来る…かも…」


大塚が資料を見ながら発言した。
こうした話し合いの場できちんと自分の言葉を発することが出来るようになったのも、本人の努力の賜物である。
大塚の言葉を受けて、山下が頷いた。


「確かに、全寮制であるから家庭から集める、というのは難しいが、霞桜にも自動販売機はあるしな」
「でも今までただ捨てていただけのものを、霞桜の生徒が、わざわざプルタブやキャップを分けて捨てるかっていう問題ありますよ」


そこはどうするんです? と風紀副委員長、一年、清水怜央が問う。
生徒会役員や山下が言うように毒を吐く人物には見えず、至って真面目に会議に参加している。
神山は自分の非公式親衛隊隊長疑惑のある清水を横目で微妙な心境で見ていると、間宮が顎に手を添えながら唸った。


「そこなんだよな…」
「僕らみたいに、募金で良いんじゃない? って思うだろうしっ」
「新しくひと手間加えるのって、人間難しいものだしねっ」
「詳しくは…総務委員会、で、決めれば…良いんじゃ…?」
「しかしある程度この場で候補を出しておいた方が、そこでの話し合いもスムーズに進むだろう」


総務委員会とは、生徒会役員と学級委員長との話し合いの場である。
総務委員会と言えどメンバーは企業の子息、人数が多い分、今よりも話し合いが進まなさそうだ。
首を捻るだけでなかなか意見が出てこない。
すると清水が神山に視線を向けた。


「神山先輩は、どう思われますか?」
「…俺?」
「はい」


何故俺に、と神山は思い掛けるも、一般家庭代表であることを思い出して、息を吐く。
意見がないこともない。
何故なら、自分が鷹宮中学で生徒会長をしていた時、同じ活動をしていたのだから。


「…例えば、一人のノルマを決める。一人最低五個とかな。それをクラス単位で集めて、総務委員会がある時に持ち寄って集計、多く持ち寄ったクラスには何かしらの特典が与えられる」
「おぉ…」
「なるほど…」
「ただ、自分で飲み物を用意するから自動販売機では買わない、だからプルタブとかを持ち寄れないって生徒も当然いる。クラス単位での競争ってなると各生徒の負担になる場合もある。それは本末転倒だ。あくまでもこういう活動は、強制ではなくボランティア、心の在り方だからな」


中学の時、神山自身は持ち寄れないタイプの生徒だった。
実家からの通いだったが、家でも飲み物はパックだったり沸かしたりしていたし、ジュースも飲まない方だったからだ。
しかし神山は当時生徒会長、その活動を先導する立場だったためわざわざ自動販売機で買ったり、近所の住人から貰ったりして活動に参加していた。
大きな負担というわけではなかったが、正直手間と感じることはあった。
しかし当時は必要だったのだ、学校改革をするために。
当時を思い出しながら語ると、各々感嘆の息を吐いていた。


「そうだな、こういうことを強制で行うと少なからず反発心が湧くものだ」
「僕の同級生にも、飲み物は絶対に自分で準備するって子もいるしなぁ」
「発展途上国のために、なんて言ってもなかなか難しいところがあるでしょうしね」
「う、ん…難し、い…」


こういう活動をしている合同総会に来ていた高校、思った以上に凄いのでは。
話し合いをすることで気付けることである。
自分も言ったように、お金持ちの霞桜学園では難しそうだ。
そう悩んでいると、ふとある考えが降って来た。
思わず間宮や戸高たちに視線を向ける。
その視線に気付いた間宮たちがどうした? と神山に問い掛けた。


「いや、…解決策、というか。案があるんだが、それもちょっと違う気がして…気にするな」
「えー、なになにー?」
「そんなこと言われると気になるよっ」


変なことではないし、きっと確実に集まって行くだろうが。
気分が乗らないと言うか。
しかし双子以外にも目線で先を促され、神山は渋面を作り、とうとう口を開いた。


「正式に決めるんじゃなくて、お前らが最初に活動するだろ」
「あぁ」
「それを見た生徒、親衛隊隊長でも良い。多分気になるだろ」
「でしょうね。何故私たちがキャップを集めているのかと」
「尋ねられたり、会話の中で何気なく伝えるわけだ。合同総会でこういう活動を学んだ、霞桜も行いたいがどういうものなのか分からないから、まずは自分たちでやっていると」
「ほうほう」
「なるほどなるほど」
「すると多分アイツらのことだ、お前らがやっているのなら自分たちもやる、と俄然やる気を出す」
「たし…かに…やる気、出しそう…」
「そこを始めとして全生徒に浸透していくだろ。各々が活動するしないに関わらず、少なくとも『生徒会や風紀がこういう活動をしている』という話が」
「親衛隊は大規模だからな」
「そこでようやく総務委員会で話し合いを行なう。その活動の意義ややり方を、詳細に説明する」
「既に活動内容は浸透しているわけだから、生徒たちにも受け入れられやすくなると、いうわけですか」


清水の言葉に、そういうことだな、と神山は頷いた。
発展途上国のためだ何だというよりも、自分たちの敬愛する親衛対象のためにという方が行動の理由となりやすい。
しかしこれはこの場の人間の人気を利用するようなことだ。
だから神山は気分が乗らなかった。
しかしそんな神山の思いとは裏腹に、肯定的な雰囲気が漂う。


「良いんじゃないか? 俺は構わない」
「私も構いませんよ。何なら最初から親衛隊隊長に説明しておくというのも手ですね」
「皆に協力してもらうと良いかもねっ」
「僕と空のチームで競争する?」
「おれ、羽川に、相談してみ、る…」
「凄いな。これなら反発心も少なそうだ」
「良いですね。俺も隊員たちに言ってみます」


隊員たちという清水の言葉に引っ掛かりながらも、神山は意外に思う。
確かに、相談、という形だと利用しているわけでもなくなるのか。
本人たちが良いのであれば、これ以上神山が言うことはない。



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