【霞桜学園】

□第二章
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「なぁ、今度の合同総会、神山が付いて来いよ」
「あ?」


夏の暑さも日に日に落ち着いて来たある日。
俺は生徒会専任特別風紀委員──通称『特風』として、山下と共に生徒会室を訪れていた。
今日は生徒会と風紀の話し合いがあるから時間を空けておけよ、と間宮に言われて、授業も出てねぇし予定はねぇよと返したのは今日の昼休みの話だ。
そして話し合いが始まったと思ったら、開口一番が間宮のさっきの発言。


「…お前な、前置きっつー言葉知ってるか?」
「俺に付いて来い。決定な」
「おい、聞いてんのか」
「間宮、突然では神山も戸惑うだろう」


『聞く耳を持たない』と言うよりも、『聞く耳を持ってしまうから神山に発言させない』という意思を感じる間宮に、山下が待ったを掛ける。
すると間宮はチッと小さく舌打ちをした。
よく分かんねぇけど、お前はガキか。


「神山司はただでさえこの学園のことに疎いんだから、ちゃんと説明しないとダメだよー」
「俺様かいちょー、ヤマっちに破れたりぃー」
「喧しい」


けらけらと笑う双子を間宮は睨む。
一度瓦解した生徒会も、あれから随分と賑やかになったもんだな。
神山、と山下が俺を呼んだ。


「実は一年に一度、いくつかの高校の生徒会役員が集まって話し合いをするんだ」
「所謂、"合同高等学校生徒会総会"というものです」
「自分が行なった活動とか、問題とか、学校の成果とか色々報告するんだよー」
「メンバーは生徒会長とあと一人で、各校自由。霞桜は腕の立つ風紀を連れて行ってるよー」
「去年、は…風紀、副委員長…、だった」


戸高や双子、大塚が更に説明を加える。
合同高等学校生徒会総会…さっき間宮が言ってた合同総会は、このことか。
でも何かどっかで聞いたことあるような。


「中等部でもかいちょーは行ったことあるんだよねー」
「そこで出逢ったんだよねー」
「「憧れの生徒会長に!!」」


それを聞いて、思わず小さくビクリと肩を震わせてしまった。
そしてそれを、山下がチラリと見てきたのを感じる。
そうだ、そう言えば間宮と会ったばかりの時、聞いたんだ。
中等部でも生徒会長をしていた間宮は、その時に行った合同中学生徒会総会で出逢った。
憧れの、生徒会長に。


「神山司は知らないと思うけど、あの時までの会長、今より俺様暴君度がすごくってねー」
「でもねー、その合同総会からじわじわと変わっていったんだよねー」
「その合同総会の、高校版だな。ひと月後にある」


山下が"憧れの生徒会長"に流れていた話を軌道修正した。
憧れの生徒会長の話を、俺はあまり聞きたくない。
鷹宮中学の生徒会長…過去の俺の話をされても、今の俺にはどうしようもねぇし。
微かに山下から気にしたような視線を向けられて、俺も一瞬目を合わせて大丈夫だと伝える。
唯一『間宮の憧れの生徒会長=昔の俺』だと知っている山下のフォローは、正直ありがたい。


「で、会長は神山に一緒に来てほしいんだって。行くの?」
「行かねぇけど?」
「は? 来いよ」
「何で俺が。今年も風紀副委員長が行けば良いだろ」
「アイツは駄目だ。絶対問題起こす」


俺が特風になってから関わるようになった風紀副委員長、清水 怜央、一年。
平均的な体格で、いつも機嫌が良さそうにニコニコしている。
俺に対しても、神山先輩神山先輩と慕ってくれているように見える。
俺が一線を引こうとしてもぐいぐい来る、稀有な人間だ。
そんな奴が、問題を起こす?


「清水が?」
「アイツの歯に着せぬ物言い、人を見下したような態度、バカにしたような笑顔」
「ほんっと、生意気だよねー」
「ねー」
「少し、…こわ、い…」
「…待て、お前らが言ってるのは誰の事だ?」
「「だからー、風紀副委員長の一年、清水怜央のことだってば」」


歯に着せぬ物言い、人を見下したような態度、バカにしたような笑顔。
…俺の知っている清水と、真反対の人物像なんだが。
怪訝な表情をすると、山下が苦笑しながら頬を掻く。


「清水は、…少し、性格に難があってな」
「彼は好きな人間と嫌いな人間で態度が違うだけですよ。ある意味、とても素直で正直な性格とでも言いましょうか」
「え、じゃあ僕ら嫌われてるってこと?」
「初対面から結構ヤな態度だったんだけど」
「副、会長、は…?」
「勿論、私も嫌われてますよ」


いや、堂々と言うことじゃねぇだろ戸高。
でもまさかあの一年が…何で俺、好かれてる部類に入ってんだ…?


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